第34章 〖誕生記念〗長い一日の終わりに温もりを寄せて / 石田三成
────早く、あの方に会いたいな
少し寂しさを覚えながらも、会えた時の喜びを期待しながら、私は長着から着替え始めた。
そして、頭の中で今日の公務を巡らせる。
城下に出向いて年貢の話を米屋に聞きに行って、それからそれについて報告をしに行って…
あとは、文の返事も書かなければ。
今日やるべき事の筋道を立てて行く。
でも───………
私はすっかり忘れていたのだ。
今日が自分にとって大切な日であることを。
それに気づかず、今日一日私は少しだけ心を乱す事になる。
今朝美依様の顔を見れなかったのは…
その序章とも言うべき、そんな出来事だったのだ。
*****
(おかしいな、どこに行っても会えませんね?)
城下から戻り、城の廊下を歩いていた私は、少しだけ怪訝な表情で首を捻った。
公務は滞りなく進んでいる。
年貢の話し合いもつつがなく終わったし…
あとは信長様にご報告するだけだ。
しかし…おかしいな。
城から城下へ向かう時『美依様は今は城下に行っている』と聞いていたから会えると思っていたが、結局会えなかった。
思わず反物屋をチラッと覗いたら『美依様は今帰られましたよ』と言われ、すれ違ってしまったようで。
結局、朝から美依様の姿を見ていない。
ここまで顔を見られないというのも、本当に珍しいな…と。
城に戻って来てからも、気持ちが悶々としていた。
やっぱり、あの方の顔を見たい。
見たいし、話をしたいし…
出来れば、少しだけでも触れたりしたい。
「……美依様、そんなに忙しいのでしょうか」
思わず、ぽつりと呟く。
昨日までは、特にそんな素振りはなかったはずだ。
多分いつも通りにしていたと思う。
今日に限って、すごく忙しいとか…?
色々考えが頭の中で巡る。
公務中なのに、考えるのは美依様の事ばかりだ。
そんな風に考え溜め息をついて、廊下の角を曲がる。
するとその瞬間、何かにぶつかり。
よろけはしなかったが、びっくりして俯いた顔を上げれば…
とても野性的な青い隻眼が、驚いたように見開いて私を見ていた。