第33章 〖誕生記念〗彩愛-甘やかな嘘- / 明智光秀
「美依…ありがとう」
逢瀬からの帰り道。
夕暮れの中、馬を走らせながら…
俺は己のすぐ前に座っている美依に言葉を掛けた。
美依は俺の顔を見上げ、目を輝かせ。
そして、胸に身体を預けながら、優しい言葉を紡ぐ。
「お礼を言われるような事はしていないですよ」
「いや…お前が今日のために、忙しくしていたのは知っていた。それに贈り物も…まんまと騙されたがな」
「う…本当にすみません」
「まぁ、それは置いておくが。俺はお前と出会うまで、このような穏やかな日を知らなかった。知ろうともしなかったな」
「光秀さん…」
美依が少しだけ言葉を詰まらせたので、俺は一旦ゆっくりと馬を止めた。
改めて美依を見れば、澄んだ視線で俺を見上げている。
戦を知らず、生きる術も持たなかった美依。
それでも、自分の信じる義を掲げて…
ひたむきに一生懸命、生きようとしていた美依。
そんな美依が気に入って、傍に置いて。
まさかこのように、鮮やかな感情が芽吹くとは思わなかったが…
(────きっと、それも必然だったと思う)
このような娘、傍に置いて惹かれない方がおかしい。
そして、こうして想いが結ばれた事実が…
本当に、この上なく嬉しい。
そっと顎を掬い、唇を軽く啄んだ。
それだけで、頬を染めた愛しい俺の女。
何度こうしても慣れない初心な所も…
堪らなく可愛くて、正直参ると思った。
「俺に人としての幸せを教えたのはお前だ。お前とこうしている今が…堪らなく尊いよ」
「……っ」
「だから、礼を言いたくなった」
「光秀さん……」
「どうした」
「それはっ…私の台詞、ですから」
すると、美依は見上げながら瞳を潤ませてきて…
少しばかり鼓動が駆け足になるのを感じていれば、美依はその桜色の唇から、また愛らしい言葉を紡いできた。
「光秀さんが私を愛してくれなければ、私もこんな幸せな日々は知りませんでした」
「美依…」
「貴方は人を幸せに出来る人です。私は今…堪らなく幸せです」
「……っ」