第33章 〖誕生記念〗彩愛-甘やかな嘘- / 明智光秀
「……!」
と、その時。
ふわりと背中から温もりに包まれ、思わず目を見開いた。
頭の後ろから伸びた細い腕は俺の首辺りで交差され、特有の甘い匂いが鼻をくすぐる。
まったく、俺が背後を取られるとは。
半ば苦笑しながら、その腕を掴むと。
首だけで振り返り、その『馬鹿娘』に優しく声を掛けた。
「おはよう、美依」
「おはようございます、お誕生日おめでとうございます、光秀さん!」
「ああ、ありがとう。まったくお前という娘は…」
「ふふっ、びっくりしましたか?」
「まんまと謀られた、完敗だ」
すると、美依が悪戯っ子のように笑む。
本当に、してやられた。
昨日の美依は迫真の演技だった。
まさか俺が騙されるとは…
こんな、嘘が下手くそな小娘に。
俺は手を伸ばし、美依の鼻の頭を指でぴんっと弾く。
『痛っ』と小さく呻いた美依を見ながら…
ひとつ、疑問に思った事を口にした。
「まさか、具合が悪いと言うのも嘘か?」
「あ…はい。離れて寝る必要があったので」
「枕元に贈り物を置くためか?」
「だって一緒に寝て、ゴソゴソやってたら…光秀さん起きちゃうでしょう?それでなくても、物音立てたらすぐに気づかれちゃうから…結構頑張ったんです、私」
「ぷっ…なるほど」
その光景がありありと思い浮かび、吹き出してしまった。
俺は職業柄、眠りが浅い。
奇襲を受けてもすぐに起きられるように…
少しの音でも、すぐに気がつく。
だから…昨夜はよっぽど油断していた。
気落ちして、ふてくされていたか。
何にせよ、美依にまんまとはめられた。
だが、悔しいと言う気持ちはない。
逆に清々しくて…ほのかに温かい気持ちだ。
「だがな、美依」
「はい?」
「こんな事をして…仕返しされるとは思わなかったのか?」
「えっ…きゃあ!」
俺は美依の腕を引っ張り、褥にゴロンと身体を転がした。
そして、そのまま素早く美依に覆い被さる。
目を白黒させる美依を組み敷き、その手首を掴んで褥に縫い付けたら…
その俺を騙した『いけない娘』を不敵な笑みで見下ろした。