第33章 〖誕生記念〗彩愛-甘やかな嘘- / 明智光秀
その夜は、少しの物足りなさと寂しさを覚えながら、眠りについた。
元々、孤独の身だ。
独りでいる事に寂しいとは思わなかった。
だが、今は美依が居る。
隣に居るのが当たり前になってしまったから…
だから今、このように少しだけ落ち込んで。
温もりが傍にないのが、やたら寂しいのだ。
(美依の体調不良、明日には治っているといいが)
甘ったれな己になったな…と
若干苦笑が漏れたのは、言うまでもない。
それほどに美依を愛してしまったと…
己の変化を受け入れつつも、まだ少しだけ戸惑いがあるのも事実だった。
*****
「……」
次の日の目覚めは早かった。
目覚めてみれば、夜が明けたばかりなのか、障子の向こうが穏やかに明るくなっていて…
小鳥がさえずっているのが微かに聞こえてきた。
やはり温かくないと、よく眠れないな。
上半身を褥から起こし、少し離れた所で眠る美依を見る。
穏やかに寝息を立てているようだ。
この分だと、体調がすぐれなくても、よく眠る事は出来たのだろう。
それなら、今日の逢瀬は大丈夫か。
そう思い、近くで美依の様子を確かめようと、改めて立ち上がろうとして…
「ん?」
枕元に何かの包みが置いてあるのに気がついた。
綺麗な和紙に包まれ、紐が掛けてあり…
一発で何か『特別な物』という認識ができた。
いつの間に置かれたのだろう。
この部屋には俺と美依しかいないのだから、美依が置いたと言うのが自然の解釈か。
そして『特別な物』という理由から、ふと気がついた事。
(まさか、誕生日の…?)
少し驚きながら包みを手に取る。
間に合わなかったのではなかったのか?
自分でそう言って泣きそうだったくせに…
逸る気持ちを抑えながら、その包みを開いていく。
紐の結びを解き、和紙を開いては出てきたのは…
美しい白藍色の羽織。
羽織紐には黒と銀の石が使われ、その丁寧に縫われたと思われる品物は、美依が作った物だとすぐに解った。
そして…
羽織と共に入っていたのは文。
ゆっくりとそれを開いてみれば…
『親愛なる光秀さんへ』から始まる、綺麗な文字が綴られていた。