第33章 〖誕生記念〗彩愛-甘やかな嘘- / 明智光秀
────だが、さすが美依と言った所か
誰かを翻弄し、思い通りに動かすのは慣れている俺でも、逆はあまり経験がない。
誕生日の前夜、美依が俺の為についた、ちょっとした『嘘』
それが、俺の気持ちを浮き沈みさせる事になる。
何かに振り回されるのは慣れていない。
だから、美依のついたとびきり優しい『嘘』が、少しばかりの落胆と苦悩を与え…
そして、至極の幸せに導くなど。
この時の俺はまったく考えてもいなかったのだ。
*****
「え、贈り物が間に合わなかった?」
その日の夜、寝る間際になって。
褥の準備も整った後、美依が俺に頭を下げながら、本当に申し訳なさそうに謝ってきた。
泣きそうなほど残念がる声色で…
言葉を紡ぎながら、なんだか痛々しいくらいしょげている美依。
「その、一生懸命準備してたんですけど、どうしても明日までに間に合わなくて…」
「……」
「色々あって、体調崩してしまって」
「え?」
「だから間に合わなかったんです、本当にごめんなさい!」
(体調を崩した、だと?)
俺は目の前で頭を下げる美依に近寄り、その頬に手を当てて上を向かせた。
言われてみれば、少し顔が赤いような。
額に手を当ててみると、ほんの少しだが熱め…のような気もする。
もしかして、誕生日のために無理をしたのではないだろうな?
俺は美依の顔を覗き込み…
労るように、優しく言葉を掛けた。
「針子の仕事もあるのに、誕生日だからと根を詰めたのだろう。無理をするな」
「光秀さん……」
「贈り物が間に合わないなど、気にしなくていい。明日の逢瀬も取りやめるか」
「い、いえ!それはぜひ行きましょう!」
「だがな…お前に無理はさせたくない」
頭を優しく撫で、その細い髪をやんわり梳くと、美依は若干切なそうな顔になる。
俺のために無理したのなら、それは俺の責任だ。
明日の逢瀬が中止になったって…
また出かけられる機会はいつでもあるし。
そう思っていれば、美依は俯きながら、小さな声でぽつりぽつりと話してきた。