第33章 〖誕生記念〗彩愛-甘やかな嘘- / 明智光秀
十月四日。
俺がこの世に誕生した日であるその日は、俺にとっては特別な日でも何でもなかった。
ただ一つ、歳を取るだけの秋の日。
城では毎年、祝いの宴やら何やらを開いてはくれたが…
俺にとって、それは少々居心地の悪い時間でもあった。
────そう、あの小娘に会うまでは
あの小娘が安土に現れ、後に恋仲となり…
毎年毎年一生懸命、俺の生まれた日を祝ってくれて。
その健気な姿に、いつしか誕生日が『特別な日』になっている自分が居た。
一体今年は何をしでかすやら。
どんな手で…俺を喜ばせようとしてくるのか。
小娘の思考は短絡だ。
でも、たまに俺の予想を遥かに上回る事をしてくるから。
今年はどうやって驚かしてくれるんだ?
俺は、それが何よりも楽しみだよ。
───………美依
俺の何よりも愛する、愛しい女
(……今日も変わらずに忙しそうだな)
ぱたぱたと廊下を走る美依を見ながら、ふっと笑みを漏らす。
その理由が思い当たるだけに…
俺は内心微笑ましく思いながら、その後ろ姿を見送った。
明日、十月四日は俺の誕生日だ。
武将達は毎年なんやかんや祝ってくれるが…
それとは別に、美依も毎年俺のために何かを準備してくれているのは知っていた。
特に恋仲になってからは、その気合いの入れようは半端ではない。
この時期になると、毎年毎年張り切って何かをやっているのはすぐに解った。
……本人は隠しているつもりなのだろうが。
全然隠れてない辺りが、また可愛くて仕方ない。
今日走り回っているのも、それが理由だろう。
全く…知らないふりもなかなかに大変なのだがな?
(さぁて、今年は一体何をやらかしてくれるやら)
心にほんわかとした温もりを感じながら、踵を返して御殿へ帰る。
今日は城での公務はもう無い。
後は御殿へ戻り、文でも整理するか。
美依もそのうち帰ってくるだろう。
明日は美依と逢瀬をする約束になっている。
だから、今夜は美依をとことん甘やかして…目覚めた時からその幸せを堪能するのも悪くない。
自分なりに色々と頭で思い描いて帰路についた。
きっと、また予想通りに事は運ぶのだろう、と。
当然のように思っていた。