第32章 〖誕生記念〗蛍火、恋空に瞬け / 伊達政宗
「わぁっ………!!」
瞬間、美依から感嘆の声が上がる。
その目の前の光景は、とても幻想的で…
美依の視線を釘付けにし、見る間に笑顔にした。
(あー、明るいなぁ)
廃墟の裏庭。
そこには大きな池があり、時期になると蛍の住処になっているらしい。
今は長月の頭、少しばかり時期は過ぎてしまっているが…
それでも、たくさんの蛍が淡い光を放ち、ふわりふわりと儚げに舞っている。
今日は風もなく、曇っていて月明かりもない。
だから余計に、その光が鮮明に見えた。
行燈なんてなくても、美依の表情が解るほど明るい。
美依を見れば、目をきらきら輝かせ、頬を紅潮させて───………
それは俺の望んでいた反応、望み通りになった事に、俺は安堵して小さく息をついた。
「どうだ、美依」
「すごい、蛍がいっぱい……っ!」
「だろ?この時期でもたくさん居るもんだな」
「本当に綺麗…連れて来てくれてありがとう、政宗!」
すると、美依は俺を見て満足そうに笑ってみせた。
その可愛らしいこと。
心の中の理性がぐらりと傾く。
そう、この笑顔が見たかったんだ。
俺は衝動に駆られるまま、美依の腰を引き寄せ…
ちゅっとその唇を啄んだ。
さすれば、美依は目をぱちくりさせ、俺を見つめてきて。
あーしまった、つい手が出ちまった。
俺は苦笑しか出てこなくて、美依をそっと抱き寄せ、自分に呆れたように言葉を口にした。
「悪い、また禁止令延びちまった」
「政宗……」
「せっかくもうすぐ禁止の期間が終わるのに…また機嫌損ねたか?」
耳元で話せば、美依は小さく首を横に振って。
そして、俺の背中に腕を回して、同じように引き寄せてきた。
「いいよ、誰も居ないし」
「でも、俺を嫌いになられたら困るからな」
「……っ嫌いになんてならないよ、あれは、つい衝動的に……っ……」
「……美依?」
美依が口籠もったので、俺は不思議に思い、その顔を覗き込む。
すると、美依は潤んだ瞳を向けてきて…
その艶やかな愛らしい表情に、思わずどきりと心ノ臓が跳ねた。