第32章 〖誕生記念〗蛍火、恋空に瞬け / 伊達政宗
「……"気味悪い"出来事にも感謝だな」
「え?何か言った?」
「何でもねぇよ、行くぞ」
本当だったら、ここで額に口づけしたかったが。
またへそを曲げられたら嫌なので、それはぐっと我慢した。
今はこうして、触れられるだけで充分だ。
せめて、腕の中にいる今を堪能しよう。
────攻めが得意な俺なのに情けない
だが…それだけこいつが大事って事だから
俺は静かに歩き出しながら、その腕の中の温もりを噛み締めるように堪能した。
美依は恥ずかしそうに頬を染めていたから。
それが行燈の淡い光で浮かび上がるたび…
俺の心は騒いで、鼓動がうるさい程に高鳴ったのだった。
*****
廃墟の中は、当たり前だが真っ暗で静かだった。
元々は誰かの持ち物だったらしいが…
持ち主が居なくなったのか、今や中は荒れ放題の、正真正銘の廃屋敷。
そんな中を、美依を抱いて進んでいく。
目的地は、その廃屋敷の裏庭だ。
「政宗…こんな場所に何があるの?」
「すぐに解る、怖いか?」
「私、こういう場所苦手なんだよ…!」
美依が泣きそうな声を上げるので、思わずぷっと吹き出してしまった。
確かに幽霊とか出そうだしなぁ。
でも、今に感動してそんな事も言ってられなくなるぞ。
俺は間近にある美依の顔を覗き込み、にやりと笑った。
「もうすぐ着く、心構えしとけよ?」
「何の心構え?」
「もちろん、びっくりする」
俺は屋敷の最奥の部屋まで進み、裏庭と部屋を隔てる襖の前で美依を降ろした。
すると、美依は微かに目を見開き…
その『異変』に気づいたようで、微かに開いている襖の隙間を見つめながら、不思議がるように言った。
「襖の向こうから光が漏れてる…?」
「そうだな、理由を知りたいか?」
「うん」
「じゃ…襖、開けるぞ。おっと、その前に」
俺は美依から行燈を受け取り、火を消す。
一気に真っ暗闇になり、今ある灯りは襖の隙間から漏れている光だけだ。
俺は口元に微かに笑みを浮かべ…
襖に手を掛けると、両手で一気に襖を開いた。