第32章 〖誕生記念〗蛍火、恋空に瞬け / 伊達政宗
「大丈夫か?!」
「なんか、ぬめっとしたもの踏んだ…!」
「ぬめっとしたものって…」
俺が美依の足元を見てみると、ぷるぷるとした何かが潰れて落ちているのに気がついた。
気味悪いが、手で拾い上げてみる。
そして、その正体が解ってみれば…
俺は怪訝に眉を寄せ、呆れた声を上げた。
「なーんでこんな所にこんにゃくが落ちてるんだ?」
「こんにゃく?誰かが落としたのかな?」
「こんな場所、普通近づかねぇだろ。誰かが故意的に置いたのか?」
「え、なんでそんな事……」
二人して首を傾げる。
さっきの不気味に這ってくる音といい、落ちてたこんにゃくといい…気味悪いしかない。
しかも、今いるのは廃墟。
これでは肝試しではないか。
俺は美依と肝試しではなく『あれ』を見に来たんだぞ?
「美依、立てるか…大丈夫か?」
美依を立ち上がらせ、着物に付いた土を払ってやると、美依は少し困ったような表情になる。
俺にもたれるように立つ美依。
もしかして、怪我でもしたか?
俺がそう尋ねれば、美依は小さく頷き、か細い声を出した。
「ちょっと、足首が痛い…」
「あー、転んだ拍子に捻ったかもな。このまま帰るか」
「でも見せたいものがあるんでしょ?行こうよ、私は大丈夫だから」
「だが、足が痛いのに歩かせるのはな…こうするか。ちょっと行燈持ってろ」
「え、わっ…!」
俺が美依に行燈を手渡し、ひょいと身体を横抱きにすると、美依は小さく驚いたような声を上げた。
歩かせるのが無理なら、これが一番手っ取り早い。
俺も…美依に触れられるしな?
「行燈落とすなよ、いい子にしてろ?」
「う、うん……」
(こんな風に触れたのは、久しぶりだな)
もたれてくる美依から柔らかな熱が伝わってくる。
そして、鼻をくすぐる甘い匂いも。
それらは全て美依特有のもので、俺がこの世で最も愛しているものだ。
愛しい者の体温、匂い。
まだ『全て』俺のものにした訳じゃないが…
だからこそ、それらは俺の心に燻る熱を煽る。
もっと、もっと欲しいって思ってしまって堪らない。