第32章 〖誕生記念〗蛍火、恋空に瞬け / 伊達政宗
────その後、俺はすぐに文を書いた
今夜、部屋に迎えに行く。
連れて行きたい場所があるから…と。
女中に頼み、美依の部屋に届けさせた。
これで美依が行かないと言ったら、もう他に手立てもないのだが。
それでも、俺が文の通りに迎えに行くと、美依は若干への字口をしながらも、いい子に待っていた。
そうして、俺と美依の真夜中の逢瀬が始まる。
色んな期待も込めて、美依の機嫌も直るようにと…
光秀に言われた通り、ある『廃墟』へと向かったのだった。
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「政宗…どこに行くの?」
「いいから付いてこい、いいもん見られるから」
真っ暗な道を美依と二人で歩く。
行燈は手にしているが、美依に気をつけていないとはぐれてしまいそうだ。
真横を歩く美依は若干不安そうな顔をしながら、俺に付いてくる。
口づけは駄目でも、手は繋いでいいんだよな?
そう思い、行燈を持つ手とは逆の手で、美依の小さな手を取ると…
美依は少しびっくりしたように俺を見てきたので、俺は口元に弧を描いて言ってやった。
「口づけは禁止だけど、手を繋ぐのは禁止じゃないだろ?」
「うん……」
「こんな真っ暗じゃ危ねぇからな、しっかり繋いどく」
すると、美依は少し笑みを見せて、手を握り返してきた。
こいつの笑った顔、久しぶりだな。
微笑も可愛いけど…やっぱり花が咲いたような最高の笑みが見たい。
そう思いながら、美依と手を繋ぎ、どんどん人気のない方向へ向かっていく。
こんな場所に『穴場』があったとはなぁ。
やっぱり光秀や秀吉、三成といった辺りの方が安土には詳しいのだろう。
俺がそんな事を考えていると…
美依はまた不安そうな顔になり、俺の顔を見上げてきた。
「ねぇ…全然人居なくなっちゃったけど、大丈夫?」
「ま、人は居ないだろうな。今向かってるのは廃墟だからな」
「廃墟?!なんでそんな所…!」
美依の顔が恐怖で歪む。
だが別に、幽霊やら何やらを見に行く訳じゃない。
俺は美依の手を引きながら、少し得意げに笑みを浮かべた。