第32章 〖誕生記念〗蛍火、恋空に瞬け / 伊達政宗
(くっそ…油断も隙もありゃしねぇ)
軍議が終わり、中庭に面する廊下で俺は盛大に脱力する。
なんともやり切れない感情に…
俺はまた溜め息をついて、頭をわしわしと掻いた。
美依の『口づけ禁止令』から数日。
本当の意味で美依に触れられない日々に、俺は燻るような思いを抱いていた。
禁止令の発令から二日後。
堪えきれなくなった俺は美依に口づけ…
それに腹を立てた美依は、本当に期限を延ばしやがった。
そして次の日も口づけてしまったら、また『口づけ禁止』の期限は延び。
気がつけば最初の三日から足して、さらに三日も延びてしまっていた。
伸びる毎に美依の守りも堅くなる。
今やもう、絶対手なんて出せない状態だ。
「ここまで本気とは想定外だったな…」
廊下にしゃがみ込み、ぽつりと漏らす。
本当に俺が人前で口づけないと反省しなければ、『口づけ禁止令』は解かれないのだろう。
この今の状態は、本当にきつい。
美依を抱きたい願望が叶う望みなんて、本当に薄れてきてしまっている。
出来れば明日までには何とかしたい、だって。
────明日はもう、俺の誕生日だ
誕生日くらい…好きな女が欲しいじゃねぇか
「どうした、政宗。随分不機嫌そうだが」
と、その時。
廊下で何度目か解らない溜め息をつく俺の元に、光秀がやってきた。
相変わらずの腹の見えない笑み。
何と言うか…『面白い遊び道具』を見つけたとでも思っているかのような、そんな表情。
「何でもねぇよ、ほっとけ」
「おや、あんな所に美依が」
「美依?!」
光秀がおもむろに廊下の先を指差したので、反射的に俺はそちらを見る。
しかし…美依の姿など、そこにはない。
『美依』という名前に過敏に反応しちまった。
俺がさらに不機嫌になり、チッと舌打ちをすると、光秀は可笑しそうに声を殺して笑った。
「なるほど、美依絡みか」
「うるせぇな」
「そう言えばお前達。ここ最近、あまり一緒にいる姿を見かけないが…喧嘩でもしたのか。それとも、美依に飽きられたか?」
俺を煽るような口振り。
こいつ…何を足掻いても首を突っ込みたいらしい。