第32章 〖誕生記念〗蛍火、恋空に瞬け / 伊達政宗
「口づけ禁止って三日間もか?」
「そのくらいしなきゃ政宗は反省しないでしょう?」
「無理だな、絶対」
「無理ならどんどん禁止する日にちが伸びるからね、とにかく……」
美依は俺を可愛い顔で睨みつけ、そしてまるで捨て台詞のように言葉を放つ。
それは頑なに意見を曲げない……
そんな頑固な芯を持つような声色。
「これでちょっとは反省して!私は本気だから、口づけてきたら…政宗のこと、嫌いになっちゃうかもね!」
────ああ、今日も『出来ない』な
これほど言われては、反論しようもない
こうして『口づけ禁止令』を出されてしまった俺は、恋仲の女に口づけも出来ない日々が始まった。
そんなに人前で口づけられるのが嫌なのか。
照れ屋な美依、それでも口づけられると顔を蕩かすから…本心では嫌ではないと思っていたけれど。
それとも、もっと他に理由があるのか?
口づけを禁止され、それはつまり『その先』もまた先延ばしになったのだと…
まだ美依と『その先』を見ていない俺は、苦々しく溜め息をつくしかなかったのだった。
*****
美依と恋仲になって半年経つ。
お互いに惹かれ合い、俺もこいつとなら『いつか』の未来を見るのは悪くないと…
そう思えた自分に、最初は戸惑ったものの。
今はこいつに馬鹿みたいに溺れている自分がいた。
だが───……
距離感から言ったら、俺達は恋仲になる以前とあまり変わっていないのかもしれない。
確かに気持ちは通じ合った。
そして、俺は触れたい時には迷いなく触れているけれど…
でも本当の意味での『身体も繋がり合う』には、また至ってはいない。
美依は奥手で純で、本当に清らかな女だ。
俺が『もっと先』に進もうとすると、まだ心構えが万全ではないのか、すぐに身体を強ばらせる。
だから、俺は途中で止めるのだ。
焦る必要はないし…いつか『その時』は必ず来ると、信じているから。
まぁ、本音は抱きたくて仕方ないのだけれど。
今回みたいに『口づけ禁止令』なんて出されてしまうと、その瞬間が先に遠のくのは必然で。
それに落胆を隠せない自分も居た。
お前が可愛くて仕方ないのに、
口づけられないなんて…相当に堪える。