第32章 〖誕生記念〗蛍火、恋空に瞬け / 伊達政宗
「んっ、ふ……」
夏の暑さも収まってきた晩夏の今日。
その日も、美依の甘い息遣いが路地に響いていた。
何故って、それは俺が口づけているからだ。
道端であろうと関係ない、口づけたいと思った時に口づけるのが俺の性格だ。
まぁ、たまに通行人が視線を送ってくるが。
そんなものは気にしたって仕方ないって話だ。
(あー、蕩け出した顔、堪んねぇ)
口づけながら表情を伺えば、美依は微かに溶けた顔をしている。
今日はもしかしたら『出来る』かもなぁ。
そんな淡い期待をして、腰を引き寄せた腕に力を込めると…
途端に美依は身体を震わせ、次の瞬間胸元にしがみついている手で、力強く押し返してきた。
「っ!」
さすれば身体は離れてしまい、必然的に唇も離れる。
まるで拒絶されたかのような仕草に、俺が目を丸くさせて美依を見ると。
美依は半ば蕩けた真っ赤な顔で俺を睨み、その上目遣いの瞳も、まるで兎の様に赤く潤んでいた。
「美依?」
「人前で口づけないでって、いつも言ってるじゃない!」
「でも嫌じゃないだろ?」
「嫌だよ!恥ずかしいからっ…!」
(そんな色っぽい顔して、説得力ねぇな)
『口づけが気持ち良かった』と証明しているその顔つきを見ていると、苦笑しか出てこない。
でも、今回は軽く啄むだけじゃなく、がっつり貪ったから…
恥ずかしがり屋で初心な美依には、少しばかり刺激が強すぎたのかもしれない。
俺はふっと一回苦々しい笑みを零すと、ご機嫌を取るように美依の頭を優しく撫でた。
そして頭を撫でながら顔を覗き込み、本当に口先だけの謝罪を口にする。
「悪かった、機嫌直せ…な?」
「政宗には一回厳しくお仕置きしなきゃだめだね」
「お仕置き?」
「そう、何回言っても、人前で口づけする所直らないから」
すると、美依は口をへの字にしながら、俺を見つめ…
その『耐え難い仕置き』の内容を、ずばりと言い放った。
「今日から三日間、外でも中でも口づけ禁止!それ破ったら、どんどん禁止する日にちを延ばしていくからね!」
「はぁ……?!」
────こいつ、目が本気だ
口づけ禁止って…本気で言ってやがる