第31章 〖誕生記念〗煌めく一番星に想いの華を / 真田幸村
「なに手ぇ合わせてんだ?」
「流れ星が無理なら、星空にお願いしとこうかなって。幸村の戦勝祈願。無事に帰って来られますように」
「……あのな、すげー言いにくいんだけど」
「なに…?」
「多分それ、信玄様の作り話だぞ?この辺でそんな逸話、聞いた事ねーから」
「嘘っ!」
それを聞き、信玄様の大人の余裕に溢れた笑みを思い出す。
じゃあ、信玄様ははなから私達を仲直りさせるために、咄嗟に話を作ったの?
だから、私達が二人だけになれるように…
こうして、場所を選んでくれたんだ。
(すっかり信じちゃった…信玄様ってすごいな)
女心をよく解ってるなぁ……
思わず心の中で苦笑してしまう。
すると、幸村は私の頬に指を滑らせ、何だか至極真面目な口調で言った。
「絶対帰ってくるから。心配しねぇで待ってろ」
「……うん」
「あーでも…あれだな」
「なに?」
「戦に行く前に…ちゃんとお前を感じておきたい」
「……!」
(幸村……)
真面目に言う幸村の瞳は、いつの間にか熱に揺れていた。
暗がりでも解るくらい…
はっきりと、鮮やかに輝いて。
それは、私を欲している時の『男の顔』。
私は頬にある、幸村の手をきゅっと握り。
必死に見つめて、幸村に想いを伝える。
同じ気持ちでいるんだよって事。
「うん、私も…幸村を感じたい」
「美依……」
「幸村、大好きだよ」
「……ばーか、煽ってんじゃねー」
そんな憎まれ口も愛おしい。
自然に私達は顔を近づけ…
そして、どちらからともなく口づけをした。
温かさが流れ込み、それは自然に涙を誘うのだけれど…
幸村の与えてくれる熱に、次第に思考はぼやけて、それどころではなくなってしまった。
貴方が大好き。
だから、無事に帰って来てね。
私の所へ、真っ先に。
不安が無い訳では無い。
でも、幸村の言葉なら信じられるから。
私は貴方を待っていられるよ。
私達はまるで誓いを立てるように、星空の下で何度も口づけ合った。
七夕には一日早い。
だから、織姫と彦星もまだ見ていない。
この世界には私達だけなのだと…
そんな錯覚すら覚えるほどに、その口づけは深く、私を溶かしたのだった。
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