第31章 〖誕生記念〗煌めく一番星に想いの華を / 真田幸村
「ケンカではないんです。ただ…」
「ただ?」
「私がわがままなだけなんです」
私は昨日の出来事と自分の思いを、信玄様に打ち明けた。
誕生日を一緒に祝いたかった事。
ただ一つ歳を取るだけの日だと言われ…
つい、自分のわがままをぶつけてしまった事。
乱世で生きるのに、何甘ったれた事言ってるのかな…と。
信玄様に話してみて、改めて気がつく。
やっぱり私は本当に甘ちゃんなんだ。
戦に行く、生死が掛かってる大事な時なのに…
何を腑抜けた、甘い事を言っているんだろうと。
なんだが、すごく恥ずかしくなった。
「本当にわがままですよね。誕生日どころじゃないって解ってるのに、寂しく思ったりして」
「……そうか」
「すみません、こんな話をして」
信玄様が真面目に聞いてくれるので、何だか素直に打ち明けてしまったけど…
こんな事言われても、迷惑以外の何者でもない。
すると、信玄様はふっと笑って。
私の頭を、大きな手で優しく撫でた。
「幸は不器用だからなー、そういう繊細な気持ちには気づきにくいんだろ」
「繊細…じゃなく、わがままです」
「そうでもない、君の気持ちは何となく解るよ。そうだなー…一ついい事を教えてあげよう」
「え?」
「耳を貸しなさい」
信玄様は頭から手を離し…
そのまま内緒話をするように耳元で話す。
(えっ……)
その内容に、私は思わず目を見開いた。
信玄様が話してくれた事は、今の私達の状況にぴったりの…
そんな素敵な『逸話』だ。
「それ、場所は近いんですか?」
「ああ、すぐ近くだ。ただこんな時間に女の子が独りで行くには少し危険だから、俺が送って行こう」
「…っありがとうございます」
思わず頭を下げると、信玄様は優しく笑って、また頭を撫でてくれた。
その『逸話』の通りにしたら…
幸村と仲直り出来るかな、それに。
私自身、もっと素直に気持ちを言えるかな。
私は早速信玄様と宴を抜け出し、その場所に案内してもらうことにした。
考えてみれば、明日は七夕だ。
きっとそこからは、綺麗に天の川が見えるのだろう。
心が勝手に浮き立つ。
その素敵な逸話をなぞろうと、そればかりに気持ちが向いてしまっていた。