第31章 〖誕生記念〗煌めく一番星に想いの華を / 真田幸村
「幸村にとって、ただの歳を取るだけの日でも、私は一緒にお祝いしたかった。もちろん無理だって解ってる…それでも、大切な日って思って欲しかった」
────ああ、子どもっぽいなぁ、私
幸村の腕を抜け出し、そのまま部屋から出る。
宛もなく廊下を急ぎ足で歩いていたら…
さっき滲んだ涙が、遂にはらりとこぼれ落ちた。
こんなの、幸村のせいじゃない。
ただの行き場のない気持ちの当て付けだって…そんなの私が一番よく解ってるんだ。
これが現代だったら、どうだったかな。
戦なんてない世の中で、どこにでもいるようなカップルだったら…
一緒に誕生日をお祝いしてたかな。
プレゼント渡したりして、甘い一日を過ごせていたのかな。
そんな、訳の分からない想像まで頭に浮かぶ。
(乱世で生きるなら、こんなの日常だ)
幸村と生きると決めた。
運命の相手だと思うからこそ…
全て捨ててでも、乱世に残ると決めた。
でも、時折やり切れなくなる。
当たり前の幸せまで、無くなってしまう事。
それを仕方ないと、割り切らなくてはいけない事。
私は私自身の甘さに腹立たしくて…
一人廊下の隅で悔し涙を流すしか出来なかった。
*****
「今日の天女は、随分と憂い顔だ」
次の日の夜。
戦の前祝いとして執り行われた宴で、私は信玄様に声を掛けられた。
私が独り、隅っこでご飯を食べていたからかな。
信玄様は周りをよく見ているし、本当によく気がつくなぁと思う。
私は小さく溜息をついて…
無理やり笑顔を作り、信玄様に向かって笑いかけた。
「そんな事ないですよ」
「幸と喧嘩でもしたかと思ってな。さっきから全然話をしてないだろう?」
「……」
(なんでもお見通しか……)
信玄様は本当によく見てるな。
こう鋭く察せるのは、私や幸村をいつも気にかけてくれている証拠なのだろう。
私は一度、チラッと幸村を見る。
幸村は謙信様や佐助君、家臣の方達と楽しそうにお酒を飲んでいる。
戦に勝てるようにっていう宴なのに…
空気を乱しているのは、私かもしれない。
私はまた小さく溜息をついてから、苦笑いを浮かべて信玄様に話し始めた。