第30章 〖誕生記念〗恋々路に降る星屑と煌 / 織田信長
(ならば…骨の髄まで、俺の物にしなくては)
美依を起こさぬように少しだけ姿勢を変え。
脱ぎ散らかした着物の中から、小さな小箱を見つけて拾い上げる。
それを開けてみれば、そこには金の指輪が入っていて…
いつしか想いが通じた時に贈ってやろうと、ずっと天主の中で機会を待っていた物だが。
もう、その手にはめてやっても良いだろう。
南蛮では、そういった風習があると、いつしか訪れた宣教師が言っていたものだ。
「確か、左手の薬指であったな」
その小さな手を取り、薬指にそっとはめ込む。
少し大きいかもしれない、とは思ったが、その指輪は美依の薬指にきちんと納まった。
障子越しに朝日を浴びて…
煌りと黄金に輝くそれは『俺のもの』だと証明し、周りに牽制をかけるにはぴったりだろうと。
それを思えば口元が緩んだ。
美依はもう、誰にも渡しはしない。
己が『最後の男』であると…
それは、覆らない現実なのだから。
「美依…愛している」
はめた指輪に誓いを立てるように、そっと口づければ、酷く神聖な気分になる。
幸せにすると言う誓い。
決して離しはしないという永遠の約束を。
貴様となら永遠も見られるかもしれない。
そんな鮮やかで激しい熱情が湧き出てくる。
そして俺は、またその腕にしっかりと掻き抱いた。
美依が起きて、この指輪に気がついたら…
一体、どんな顔をするだろう。
喜ぶか、泣くか、びっくりするか。
俺の予想を立てるなら…
『びっくりした後、泣き笑いになる』に違いない。
その顔を見る事こそ『一興』だと。
またひとつ楽しみが増えたなと思いながら、再び目を閉じた。
すーっと染み入るようにやってきた眠りも。
ああ、美依が温かすぎるせいだ。
こやつがいれば深く眠れるのだろうな、と。
そう幸せな安堵感に包まれて……
酷く心地良く、意識はすとんと落ちた。
(────貴様は、俺の)
光であり、温もりであり。
幸せを運ぶ存在でもあり。
そして───………
『唯一の女』なのだと。