第3章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《後編》/ 明智光秀
「ん……光秀さ……」
しばらくそうしていると。
美依が小さく言葉を発し、閉じられた長いまつ毛がゆっくり開いて。
コロンとした黒い目が、俺に焦点を結んだ。
まだ多少寝ぼけているか、美依はふわふわした面持ちで……
俺がそっと指で頬を撫でると、美依は数回瞬きをして、またゆっくり言葉を紡いだ。
「おはよ、ございます……」
「おはよう、美依。まだ夜中だがな」
「あ、まだ真っ暗だ……」
「身体は辛くないか、大丈夫か?」
「はい……」
すると、美依は急にしゅんとしょぼくれる。
一体どうした、やはり身体が辛いのか?
気になって、俺が再度『大丈夫か?』と尋ねると、美依はやはりしょんぼりした様子で、小さく頷き……
俺に申し訳なさそうに言った。
「血で汚しちゃったなと思って……」
「それは仕方ないだろう、初めてだったのだからな」
「でも、恥ずかしいなぁって……」
「なら、今から風呂にでもいくか?」
「へ?」
「洗い流せば終わりだ、布団も布を外して洗えば落ちる」
「い、今は遠慮しときます……」
今度は少し赤面して、首を横に振る美依。
落ち込んだり、照れたり、忙しい奴だ。
────でも、それが最高に可愛いがな
改めて美依を抱き直し、その肩口に顔を埋める。
首筋あたりで、呼吸を繰り返していると……
美依が不思議そうに尋ねてきた。
「どうしたんですか、光秀さん」
「お前を堪能している最中だ」
「え?」
「こうしてると、お前の匂いで落ち着く」
我ながら、馬鹿みたいだとは思うがな。
裸で抱き合って、こうしてお互いを堪能して……
それは『恋人同士の特権』なのだと。
改めてそう思うと、こそばゆくて、何故か嬉しい。
美依は静馬に抱かれなかった。
この瞬間を味わっているのは、俺だけだ。
それだけで……誇らしく、幸せに思う。
すると、美依が不意に俺の髪を梳き。
ぽつりと、こう漏らした。
「光秀さん、なんか可愛い」
(……ちょっと待て、それは心外だぞ?)
思わず顔を上げると、悪戯っぽく笑う美依が映る。
俺はその顔を見ながら、少し眉をひそめた。