第30章 〖誕生記念〗恋々路に降る星屑と煌 / 織田信長
その後、夕方には山の麓にある小さな宿屋に着いて。
どうやら信長様の目的地はこの近くで…
もう少し夜が更けないと駄目なんだとか。
そんな訳で、先に夕食を済ませ、信長様は宿の主人に『目的地』の詳しい場所の確認をしに行ってしまったのだけど。
私はもう緊張して、気が気じゃなかった。
その簡素で狭い部屋。
当然のように、一部屋しか確保はされていなかった。
つまり……
信長様と同じ部屋で過ごすのだ。
なに、このシチュエーションは。
これで意識するなという方が無理!
もう、心臓はバクバクで体温も上がって。
逃げ出したいくらいの感情が押し寄せてきて、居ても立ってもいられずに、部屋でそわそわしていると……
「そろそろ出掛けるぞ」
夜もとっぷり更けた頃、信長様が私を外に連れ出した。
一体どこに行く気なのか。
私はただ俯いて、信長様の後を追うことしか出来なかったのに。
私は───………
この後『奇跡の瞬間』を目の当たりにするのだ。
「美依、はぐれぬようにな」
「……」
「……美依?」
(どうしよう、何を話したら……)
小さな灯りを頼りに、信長様と暗い道を歩く。
俯いたまま、信長様の足元を見ながら、見失わないようにと足を進めるけど……
宿の件からの私の緊張は続いていて。
信長様と二人きりの状況に、変に意識しっぱなしになっていた。
一体信長様とどう過ごせと言うのか。
こんなの、本当に……
私は生きて帰れるのか!レベルである。
(ううう…お腹痛くなってきた)
こんなの逃げることも出来ない。
一人で頭の中でぐるぐると考えを巡らせていた。
その時だった。
「……美依!」
「え?」
突然、信長様に大きな声で名前を呼ばれ、びっくりして顔を上げると…
暗くても解るくらい、信長様が不機嫌そうな顔をして私を見下ろしていて。
何か怒らせたかな?と思っていると、信長様は灯りを持つ手とは逆の手で、私の手を握ってきた。
「あ…」
「俺の話を聞いているのか、貴様。はぐれぬようにと言っているそばから…やはりこうしておく必要があるな」
ちょっと怒ったように言う信長様。
でも、手を握る骨張った手は、驚く程に優しかった。