第30章 〖誕生記念〗恋々路に降る星屑と煌 / 織田信長
「そう言えば信長様、目的地ってどこなんですか?」
私は浮つく心を抑え、今日信長様が誘ってくれた『理由』について尋ねてみた。
お城を出発する時…
私を連れて行きたい場所がある、と仰っていたからだ。
すると、信長様は馬を止める事もせず、私の顔を覗き込んで。
そして、不敵な表情で私に言った。
「秘密だ」
「秘密?」
「ああ、夜には到着する」
「夜って…帰れなくなりませんか?」
「杞憂するな、宿は確保済みだ」
「……へ?」
信長様の言葉に、思わず変な声が出る。
夜に目的地に到着で、宿は確保済み。
それはつまり、信長様と泊まるって事で…
(え、えぇぇ!!)
考えたら、顔がぼっと火照った。
こんな、逢瀬に出かけて泊まるとか…!
本当に、なんか恋仲同士みたいで。
もちろん何をするって訳ではないけど。
それでも『何か』を変に期待してしまう。
すると、その考えを見透かしたのか…
信長様はさらに可笑しそうに笑い、私に問いかけてきた。
「何を考えている、貴様」
「べ、別に何も…ただびっくりしただけです」
「そうか、それは残念だ」
(え……?)
私が目を見開くと、信長様は再度視線を先に戻し、少しだけ馬の速度を早めた。
残念だって…
私に『何か』を期待してほしい、みたいな。
そんな風に受け取ってしまい、また顔が赤くなった。
信長様は私とそうなりたいの?
泊まる宿まで準備して…
信長様はそのへん、どう考えているのだろう。
少しは特別に思ってくれてるのかな。
本当に…全然気持ちが解らなくて、参る。
────信長様は、ずるいよ
何だか、こちらばかりドキドキさせられて悔しいな。
信長様も同じだったら、いいのに。
その後、信長様にその真意を聞くことも出来ず、私はただ押し黙って、馬の走る蹄の音だけを聞いていた。
身体は信長様に預けていたけど、触れた部分が感電したみたいに痺れてくるようで…
意識してしまえば、もうそれしか考えられなってしまった。
でも──……
今日信長様が誘ってくれたのは、今夜が『特別な夜』だからだと。
それを知るのは、もう少し先になる。
この時の私はまだ信長様に翻弄されて…
ただ高鳴る心臓を痛いくらいに感じていたんだ。
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