第30章 〖誕生記念〗恋々路に降る星屑と煌 / 織田信長
「お誘いありがとうございます、信長様」
「うむ、馬に乗って少し遠くに行くのも良いだろう」
「わぁ…遠乗りなんて素敵です!」
思わず信長様に笑みを向けると、信長様はふっと目元を緩め……
顎を指で掬ったまま、顔を近づけてきた。
(………!)
迫ってくる端正な顔。
なにこれ、なにこれ!
もしかして、キス…される?!
後ずさろうとすると本棚に背中が付いてしまい、信長様は後ろの本棚に手を付き、私の身体を閉じ込めて。
まさに『壁ドン』の体勢で唇を近づける。
私は、どういう状況なのこれ!と若干パニックになり…
近づく顔を見ていられるはずもなく、ギュっと目を閉じてしまった。
「ふっ……」
(え?)
すると、信長様の小さく吹き出した声が聞こえ、唇が重なる感触はなかった。
その代わり、額にふわりと温もりが落ちる。
私が再度そっと目を開けると……
間近で鮮やかに笑う信長様の顔が解って。
その不敵な表情から、からかわれたのだと瞬時に解った。
「の、信長様っ…!」
「何をされると思ったのだ、貴様」
「何って……!」
その玩具をみつけた子供のような悪戯っぽい笑みに、私は何も言葉を返せない。
口づけようとしましたよね?なんて。
そんな事、恥ずかしくて言える筈もなく。
さすれば、信長様はくくっと笑って……
羽織を翻すと、そのまま書庫の扉に向かって歩き出す。
その間にこちらを一回振り返り、また艶やかな笑みをみせた。
「明後日を楽しみにしている、美依」
────パタンっ
書庫の引き戸が閉まり、信長様は行ってしまった。
私は途端に力が抜けてしまい…
その場にへなへなと座り込む。
信長様の誕生日に逢瀬に誘われて、そしてキスされそうになった。
確かに『唇で酌をしろ』と命じられ…
皆のいる前でキスされそうになった事もあったけど。
それは気持ちに気づく前だったから、突っぱねられた。
今は信長様が好きと解って……
あんな風にされたら恥ずかしくて焦ってしまう。
むしろ、されたいとか思ってしまうから、本当にタチが悪い。
信長様はどうなのかな?
私にキスしたいとか思ってはくれないのかな。
やっぱり…からかわれただけなんだろうか。