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【イケメン戦国】零れる泡沫*恋奏絵巻*《企画集》

第30章 〖誕生記念〗恋々路に降る星屑と煌 / 織田信長




*****






「あれ、信長様……?」



季節は皐月に入り、新緑も萌えるある日の夜。
お城の書庫に本を返しに行ってみると、珍しい人がそこには居た。

巻物を手に持ち、憂いにも見える表情でそれに目を落としていたその人は、私に気が付き顔を上げる。

そして、視線が絡むと…
ふっと目元を緩めて口を開いた。




「美依か、どうした?このような遅い時間に」

「三成君におすすめされた本を返しに来たんですけど…珍しいですね、信長様が書庫にいらっしゃるの」

「少し野暮用があった。もう天主に戻るがな」




信長様はくるくると巻物を元に戻すと、それを大事そうに懐に入れる。

大きくて綺麗な手だなぁ。
懐に仕舞う流れすら様になる。
そんな風に思いながら、信長様の所に歩み寄ると……

信長様は私を見つめ、ふわりと指で顎を掬ってきた。



(えっ……)



突然の動作にびっくりして、思わず顔が火照る。
そんな私を見ながら、信長様は可笑しそうに笑い、再度口を開いた。




「美依、明後日は仕事を休むように命じる」

「え、何故ですか?」

「貴様は俺と逢瀬をするからだ」

「信長様と逢瀬……?!」

「異論があるか。聞かぬがな」




(嘘っ、信長様からのお誘い…?)


その言葉に、否が応でも心臓が高鳴った。
今まで視察や何やらで信長様と出かけた事はあったのだが、それは二人きりではなかった。

逢瀬ってつまり、デートって事で。
信長様と二人きりで出掛けられるの?

嬉しすぎて、顔がにやけてしまう。
そうなれば、感情なんてモロバレで…
信長様は満足そうに微笑んだ。




「無いようだな、美依」

「あ、あの、なんでいきなり逢瀬なんて…」

「俺の誕生日だからだ」

「あっ……!」




信長様に言われ、ハッと気がつく。
明後日と言えば、五月十二日。
信長様のお誕生日の当日で。



(でも誕生日に逢瀬なんて、恋仲みたい)



それを思ったら、余計に嬉しくなった。
私と信長様は恋仲同士でもなんでもない。
私は、ただの信長様の持ち物で験担ぎで。

……でも、私は信長様が好きだけど。

この恋は、絶賛片想い中だった。
だから、余計に信長様のお誘いが嬉しかった。







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