第29章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【後編】/ 徳川家康
────1月31日、N大学
(……変わってないな、大学も)
その日の昼過ぎ。
大学を訪れた俺は、空き教室の窓から外を見て、小さく息を吐いた。
今日も相変わらず寒い。
雪でも降りそうな程に。
こうして吐く息が真っ白だ。
でも、このくらいが丁度いいのかな。
色んなものが芽吹く前と言う意味で……
『家康さん、これから幸せになってね』
そして、思い出す紗奈の言葉。
正直に話した時の彼女は、意外にも清々しい顔をしていた。
美依が好きだから、もう付き合えない。
俺は紗奈をフったのに……
あの子はほっこりとした笑顔を浮かべていた。
もしかしたら我慢していたのかもしれないけど。
紗奈には幸せになってもらいたいな。
あの子を大事にしてくれる男が現れるといい。
そう願わずにはいられない。
「懐かしいな……」
窓から教卓まで移動して。
そこに手をつくと、『あの日』の記憶が鮮明に思い出された。
そう、この場所だった。
この教卓の下で、美依を抱いた。
みっともなく欲情して……
馬鹿『みたい』じゃなく、完全なる『馬鹿』だ。
────まぁ、それだけ好きだったんだけど
(色々辛かったな…今日まで)
美依を忘れた日はなかった。
いつまでも『あの日』を夢に見た。
もう叶うはずもないと思っていた願い。
美依の結ばれたいという、想い。
それを抱き締め生きてきて……
紗奈と出会い、少しは緩和されたと思ってた。
けれど、現実はそうもいかなくて。
似てるあの子に美依の面影を写した。
結果、俺はあの子を思う事は出来ずに……
ひどく傷つけてしまったのだけど。
でも、だからこそ強く思う
自分が幸せにならなければ──……
周りも幸せにできないのだと。
「────家康!」
その時だった。
名前を呼ばれ、顔を上げると。
教室の入口から、俺の想っていた人物が姿を現した。
「美依……」
見れば、白いニットのワンピースを着ていて。
忘れるはずもない、その格好は……
俺が抱いた時の、そのままの服装。