第29章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【後編】/ 徳川家康
「私だって、ずっと家康が好きだった。忘れようと政宗と付き合ったけど…忘れる事なんて出来なかった。あの日、ああされて…私は嬉しかったんだよ、だって。ずっとずっと、好きだったから───………」
(美依…………)
ちょっとしたすれ違いが──……
ずっと俺達をがんじがらめにして、動けなくさせていたんだ。
素直になってしまえば、こんなに簡単。
たった『すき』と二文字を伝えていれば……
こんなに拗れる事も、なかったのだ。
「美依……」
「あっ……」
俺がその華奢な肩を引き寄せ、腕に抱き締めると、美依は小さく声を上げた。
大好き、大好きだよ、美依。
でもまだ、あんたを俺のものには出来ない。
俺には…やるべき事が残っているから。
「美依、政宗さんと話がついたら、あの場所に来て」
「あの場所……?」
「俺達が初めて結ばれた場所、待ってるから」
「家康……」
「俺の誕生日に待ってる」
────間違えた場所から、やり直そう?
ああ、この世に運命があるのなら。
こうなる事は、必然だったのかな。
どんなに自分を誤魔化し、欺いても──……
結局は、己の運命には逆らえない。
美依が好きで堪らないと言う気持ちにも。
こんな風に全てを後手に回したから……
結局は周り、みんなが傷ついた。
俺があの日、一言『すき』と言ってしまえば、全て丸く収まった。
俺はもう、逃げないよ。
紗奈からも、美依からも。
『俺達』の関係を築きたいなら──……
赤裸々に気持ちを晒そう。
己に……正直に生きよう。
雪の降る日。
小さなアパートの一室。
俺と美依はようやく心も繋がり合った。
まだお互いにやる事が残っているから。
正式に結ばれるのは、まだ早いと……
身体は繋げることはしなかったけれど。
ただお互いを抱き締めるだけで、確かな安堵感があって。
複雑に絡んだ、気持ちの紐が……
ようやく解けて、そして綺麗な蝶々結びになったのだと。
それをお互いに感じた、暗いトンネルの出口だった。
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