第29章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【後編】/ 徳川家康
「家康、殴った事は謝らない。それは美依にキスマークを付けた分だ。まだ…美依は俺の女をだからな」
「政宗さん……」
「美依、家康とちゃんと話してこい。それからどうするか考えろ、俺はもう帰るからな」
「政宗っ……!」
そのまま政宗さんは部屋を出ていく。
美依は政宗さんを追いかけようとして……
途中で動きを止めた。
────バタン
静かに玄関のドアが閉まり、取り残された俺達。
俺がベッドから身体を起して、そのまま腰掛けると……
美依も俺の隣に座って、俯いて小さくため息をついた。
「……」
「……」
何から話せばいいのか、言葉が見当たらない。
でも……政宗さんが身体を張って教えてくれた事。
『素直になる事が、一番みんなが幸せになる』
本当にそうだとしたなら。
俺はもう…逃げるわけにはいかない。
「美依…なんであの日、俺との事…無かった事にしようと言ったの?」
「家康……」
「俺はあんたが俺を許せないからだと思ってたよ。あの行為を許せないから…無いものにしたいのかと思って、でも」
こぶしをぎゅっと握る。
昇華されなかった、美依への気持ち。
散々遠回りして、周りを傷つけたけど……
もし、花を咲かせていいならば、
それは───………今だ。
「俺はあんたが欲しくて、あの日…誕生日プレゼントにかこつけて、あんたを抱いた。美依の初めての男になりたかった、あんたを俺のものにしたかった。俺はずっと……あんたの事、好きだったよ」
「家、康……」
美依は潤んだ瞳を、零れんばかりに開いて。
口元を手で押さえ、また静かに目を閉じた。
まぶたが降りた瞬間、また雫が頬を伝って…
俺が手を伸ばし、そっと指で涙を拭うと、美依は鼻をすすって、ぽつりぽつりと話し始めた。
「無かった事にしようと言ったのは、抱いた後の家康が酷く傷ついた顔をしてたからだよ」
「え……」
「勢いであんな事したのを、後悔してるのかなって。だから私、無かった事にした方がいいかと思って」
美依の唇が言葉を紡ぐ。
俺が……一番聞きたかった言葉を。