第29章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【後編】/ 徳川家康
「俺はな、美依が好きで、告白しようとして…それでそんな現場を見て、で…付き合ってないだぁ?ふざけんな!」
「……っ」
「俺は諦められなかった、それで付き合えた時は嬉しかったが…肝心の美依は俺を見ていない。美依は…俺なんかこれっぽっちも想っていない」
────微かに震えている声
その心からの叫びは…赤裸々で
掴まれた胸ぐらの手も
どこか涙を孕んで潤む瞳も
それは美依を想う……
かっこいい一人の男の姿だった。
「俺がこれだけ言ってんだ、お前らもいい加減認めろよ!なんでお前ら、二人して認めねぇんだよ!そのせいで周りはもっと傷ついてる、その事を理解しろよ。お互い好きだって…いい加減素直になれよ、それが一番みんなが幸せになれんだよ……!!」
(あ────…………)
『貴方は私を見ながらも、私自身は見ていなかった』
紗奈に言われた言葉。
それは俺自身の態度のせいで……
結果、紗奈を傷つけてしまった。
美依も、そうだったのか?
政宗さんと付き合いながら、他の男を見て。
そのせいで……政宗さんは傷ついたのか?
俺は、周りが傷つくのを恐れながらも、周り全てを傷つけていたのだと。
それに気づけば必然的に見える。
美依も同じだとしたら、
『家康になら、何されても──……!』
────美依は、俺の事
「……ごめん、政宗」
その時、俺達を横から見ていた美依が、ぽつりと言った。
見れば、唇を噛み締め、涙を流して……
もう、逃げも隠れも出来ないと。
美依はそれを感じたようだった。
「政宗を傷つけて、ごめん。私、素直になるから」
「……」
「だから、もう家康を離してあげて……!」
美依の言葉を聞き、そこで政宗さんはようやく俺から身体を起こした。
ベッドから降り、軽く襟元を直して……
一度、天井を見上げて、深くため息をつく。
呆れているのか、それとも。
『素直になる』と言った美依に……
色んな意味で、覚悟を決めたのか。
その横顔からは何も読み取れなかった。