第29章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【後編】/ 徳川家康
「俺、お前らが過去…大学の教室で何したか、知ってんだよ」
(────…………!!)
言葉が出なかった。
過去、大学の教室で何をしたか。
それはつまり……
『あの日』を指しているのだろう。
何故、政宗さんが知っている?
学部も違う、先輩が。
何故、俺達の秘密の蜜事を──……
「政宗、なん、で……」
「詳しくは中で話そうぜ。家康、来ないとは言わせねぇ」
「……っ」
政宗さんの、脅すような声色。
俺に、拒否権はなかった。
もしかしたら『気持ちの逃げ道』も……
────俺が押し殺していた
秘めた想いが暴かれてしまう
三人で美依の部屋に入って、コーヒーを入れてテーブルの前で座り込んだ。
俺からテーブルを挟み、向かいに美依。
政宗さんは美依の後ろにあるベッドに座り込み……
少しばかりの高い目線から、俺を見下ろしている。
それだけで、半端ない威圧感と気迫。
俺はもう逃げも隠れも出来ない……
獣に狙われた、獲物のようだった。
「で?言い訳あるなら聞いてやろうか、家康」
「……」
「美依がお前に会いに行った理由なんて解ってんだよ、キスマークの事だろ?」
無言で座る俺に、政宗さんから話を切り出してくる。
言い訳も何も……
美依とは本当に何も無かったし。
キスマークは…出来心だったけれど。
(酔った美依に煽られて…なんて)
そんな事は言えるはずもなく。
俺がどう言おうか考えていると……
美依が政宗さんの方に振り向き、訳解んない言い訳を口走り始めた。
「い、家康が付けたんじゃなかったの!」
「……はぁ?」
「政宗、自分で付けた痕でしょ?ね?」
「お前な……」
政宗さんは呆れたようにため息をつき……
美依の襟元を掴むと、ぐいっとその襟を強引に開いた。
「男は自分で付けた痕くらい、区別出来るんだよ」
「……っ」
「これは、俺が付けた痕じゃない。家康じゃないなら、誰に付けられたんだ…美依?」