第29章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【後編】/ 徳川家康
駐車場から空を見上げれば、粉雪がはらりはらりと舞って、外を銀世界に染め始めていた。
俺達も、雪みたいに真っ白になれたらいいのに。
過去もすべて───………
真っ白に染められたらいいのにな。
そんな風に思った、寒い寒い冬の日。
しかし、この後とんでもない一波乱が待ち受けていようとは。
俺はまだこの時、知る由もなかったのだ。
*****
「よお、美依…家康も一緒か」
その後、終始無言のまま、美依をアパートまで送っていくと。
玄関のドアの前で、政宗さんが待っていた。
ドアに寄りかかり、俺達に気がついた途端に不敵な笑みを浮かべて……
正直、今一番会いたくない人物だ。
その深い青い瞳からは感情が読み取れず。
でも、俺の微かな動揺を感じ取った政宗さんは、まるでからかうように言葉を続けた。
「家康、人の女を寝取るとはいい度胸じゃねぇか」
「……そんな事はしてません」
「じゃあ、なんで今一緒にいる?」
「美依を送ってきただけです、俺に用事があって病院まで来てたから…この雪じゃ帰れないでしょ」
「用事ねぇ……」
さらに政宗さんは可笑しそうに、くっくっと笑う。
美依が何の用事で俺に会いに行ったのか…
多分それを、解っているかのようだった。
(俺は美依を送ってきただけだし)
そう、俺の用事はもう済んだ。
これ以上の長居は無用。
俺は半歩後ろにいる美依の方を向き、自分でも淡白な口調で美依に話しかけた。
「美依、俺は帰るから」
「……っ家康」
「じゃあね、もう……」
『二度と会わないから』
その言葉を思わず言いかけて、瞬時に飲み込む。
そう、もう会わない方がいい。
これ以上一緒にいたら…自分が何するか解らない。
俺はそのまま二人に背を向けた。
足早に去ろうとしたのに……
ぐいっと肩を掴まれ、凄みの聞いた声が後ろから聞こえた。
「────待て、家康」
「政宗さん…話す事は何も無いです」
「俺はある」
すると、強引に後ろを振り向かされ……
まるで青い炎が燃えてるかのような視線が、己のと絡んだ時。
政宗さんはとんでもない一言を放った。