第28章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【中編】/ 徳川家康
「家康…この前は泊めてくれて、本当にありがとう」
「あ……うん」
「それで、さ。私達…何も無かったよね?」
「えっ……」
美依の言葉を聞き、思わず心臓がドキリと高鳴る。
何も無かったかと言われれば、何も無かった。
そう…『何かしそう』になって押し留まったから。
覗き込んだ顔を上げて、俺はふうっと息をつき…美依に何故そんな事を聞くのか、聞いてみることにした。
「何も無かったよ。なんでそんな事聞くの?」
「あの、ね……」
「うん」
「鎖骨のとこにキスマークが付いてて…それを政宗が見つけて、喧嘩になって」
「えっ……」
「家康に付けられたのか?って…私、何も覚えてないから」
(しまった……それか)
美依の話を聞き、思わず額に手を当てうなだれる。
確かに『それ』は俺がつけた。
気持ちが高ぶって、美依の肌に吸い付いて…
まさかそれで、政宗さんと喧嘩になっていたなんて。
それは、さすがに俺のせいだ。
付き合ってるカップルの喧嘩の火種を作るなんて、俺は本当に酷い奴だ。
さっきから…自分の色々に情けなくなる。
「ごめん…それ、俺がつけた」
「えっ……」
「でも、それだけで…それ以上何かした訳じゃないよ。それは信じてくれ、としか言えないけど」
「なんで、そんな事したの……?」
「……」
(────あんたが、好きだからだよ)
思わず、その言葉を飲み込んだ。
そんな事、言える筈もない。
もう…俺達は違う道を歩いているのだから。
過去の日は、過ちだったけど。
あれはもう『無かった時間』だろう?
俺達の交わりは、あれだけだった。
俺の気持ちが昇華する事は──……
もしかしたら二度とないのかもしれない。
「……送ってくよ、家まで」
「…っ、家康……!」
「車取ってくるから待ってて」
俺は椅子から立ち上がり、美依に背を向ける。
なんでそんな事をしたのかなんて……
言えるはずもないのだから。
すると、
「………っ!」
美依が俺の手を、後ろから掴んで引き止めた。
振り返れば、真っ赤な顔をした美依が……
なんだか泣きそうに瞳を潤ませ、俺を見つめていた。