第28章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【中編】/ 徳川家康
「家康、私っ……」
「……」
「私はねっ……?」
そして、美依の桃色の唇が開かれ、そこから紡がれたのは……
まるで、俺の内心を蝕むような。
そんなまるで蜜毒のような、甘い囁き。
「家康になら、何されても───………!」
────それは、言っては駄目だ、美依
期待、するだろう?
そんな潤んだ瞳で、俺を煽るの?
俺には彼女が居て、
あんたには彼氏が居て、
『俺達』の関係はないんだ。
それをしたら、日常が崩れてしまう。
だから──……
戻れなくなる前に、
その手を、離して。
今日も空からは粉雪が降る。
数年前の『あの日』も……
こんな風に寒い日だったね。
俺達は小さな動物病院の中、見つめ合って、ひたすらに立ち竦んでいた。
お互いからは視線は離せずに。
その視線の意味も解らないまま……
ただお互いの存在を瞳に映していた。
俺達はどこへ向かうのだろう。
俺の想い人の名は?
美依が想うのは…誰?
もうすぐ、また俺の誕生日が来る。
『あの日』から複雑に絡み合った、
想いが交差するまで……あと、数日──……
想ウ、君ノ名ハ【中編】
了
想ウ、君ノ名ハ【後編】
に続く──……