第28章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【中編】/ 徳川家康
「美依、ちょっと待ってて」
俺は美依に一言残すと、そのまま紗奈の後を追った。
ロッカー室の所で、紗奈の手を掴み……
引き止めるようにすると、紗奈は俺の方に振り返って、なんだか痛々しい笑みを見せた。
「紗奈、どうしてそんな顔……」
「家康さん…あの人なんでしょう?マンションに泊まったって人。政宗お兄さんから聞いてるよ」
「あ……」
「私、なんとなく解っちゃった。家康さん、あの人の事…好きだよね?」
「えっ……」
気持ちのド真ん中をぐっさり刺された気がして、思わず目を見開く。
そのまま、紗奈は言葉を続けた。
なんだか悲しい声色で。
まるで雪に溶けるような、儚い笑顔で。
「私…家康さんが私以外の誰かを想ってる事、解ってたよ。貴方は私を見ながらも、私自身は見ていなかった。そのくらい…好きな人なんだから解る。あの人を見る貴方を見て…悟ったから。家康さんは…ずっとあの人を想っていたんだね、なんか…悔しいなぁ………」
俺は、何も言えなかった。
その通りだと思ったから。
そもそも、紗奈を選んだのも不純な動機。
俺は、紗奈自身を見ていなかったから。
────ごめん、としか言えない
俺は…なんて酷い男なのだろうか
「ごめん、美依」
美依の元に戻ってみれば、美依もやっぱり少し沈んだような表情で笑みを作った。
紗奈は…今は俺は何も言えない。
また改めて後日、ちゃんと話をする必要はあるが。
美依は何故俺に会いに来たのだろう。
こんな天気の悪い日に……
何か急な用事でもあったのだろうか?
「あの子は大丈夫なの…?雪降ってるけど」
「バスで帰るって言うから」
「……そっか」
「美依、こんな日にどうしたの?」
俺が美依の隣に座り、顔を覗き込むと、美依は更に暗い顔になって俯く。
そして、少しの沈黙の後……
美依がぽつりぽつりと、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。