第28章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【中編】/ 徳川家康
「よぉ、美依。迎えに来た」
「迎えに来たって…」
「ったく、いくら大学時代の同級生だからって、酔っ払って男の家に泊めてもらうなんざ……あとでお仕置きな」
「…っ、お仕置きってあのね…」
政宗さんが意地悪く、くすくす笑う。
この分だと…振り回されてるって噂は本当になのかもしれない。
まぁ、政宗さん自体がハチャメチャな人だから。
美依も面倒かけたわけだから、仕方ないかもしれないけども。
「ごめんね、家康。泊めてくれてありがとう、近々お礼させてもらうね」
すると、美依が俺の方に寄ってきて、ぺこりと頭を下げた。
うーん…
こう素直になられるから怒れないんだよな。
俺はそんな風に思い、小さく息を吐く。
(別に何も無かったし、ただ泊めただけだし)
何も無かったのは本当だ。
ただ泊めただけ…とは違うかもしれないが。
それでも、俺なりの『自制』は保ったはず。
俺が『別にいいよ』と言うと、美依はホッとしたような顔つきになり、ふにゃりと笑って。
ああ…この笑顔は、既に別の男のものなんだ。
そう思ったら、何故か少し寂しくなった。
その後、政宗さんと美依は揃って、うちから帰って行った。
久しぶりに会った先輩。
久しぶりに会った…昔の想い人。
それは、昔と何もかも変わっていないと思っていたけれど……
俺達は同じ場所には立っていないんだ。
俺には彼女が居て、美依にも彼氏が居て。
すでに別の道を歩いてる。
あの日、美依と身体を重ねた日から、俺達は少しくらい交わった道を歩いていると思っていたが…
────現実は、とても離れた立ち位置に居る
もう美依の事は忘れよう。
きっとそれが、お互いの為になる。
『あの日』は封印したまま…
もう『無かった記憶』として。
この気持ちも、
花を咲かせては、いけないよ?
花が芽吹くには、まだ寒い季節。
俺は気持ちにそっと蓋をして…
あの日の記憶を、完全に無視する事に決めた。
それなのに…悲しいかな。
運命と言うのは、自分の思うようには回らない。
あの日に刻まれた事が…
今になって俺達の関係を、大きく狂わせていくのだ。
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