第27章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【前編】/ 徳川家康
「隣町まで行ってください、住所は……」
(美依、ほんと後で覚えてなよ……!)
俺の指示した場所に向かって、タクシーは走り出す。
膝に美依の重みを感じながら、窓の外を見れば、ネオン街が鮮やかに通り過ぎて行くのが見えた。
街灯とビルの光が、白やオレンジに光って……
月明かりなんて、さっぱり解らないな。
ふとそんな事を思いながら、美依の頭を優しく撫でたのだった。
*****
「よいしょっと……」
寝室のドアを器用に開け、部屋に入ると、中央にあるベッドに美依を降ろす。
なんだかそれだけて疲れてしまった俺は……
美依の横に座り込み、ふぅっと息をついた。
別に美依が重かった、とかではない。
美依自身は寝ているのにも関わらず、驚くほどに軽かった。
要は……精神的な話。
「紗奈ですら、俺の部屋入った事ないのに…ほんっとにこの子はもう」
思わず、ぽつりと漏らす。
一応、俺は彼女がいる身で。
その彼女すら部屋に呼んだことがないというのに、大学の同級生(しかも女)が泥酔してベッドに寝ているなんて……
こんなの反則と言うか、絶対に駄目だ。
いくら昔の想い人とは言え、そのくらいの分別はあるぞ?
起きたら、速攻で帰ってもらわないと。
もしこんな事、紗奈に知られたら、優しいあの子を傷つけてしまう。
(紗奈……か)
横を向き、チラッと下に視線を向ければ……
すやすやと気持ち良さそうに眠る美依。
顔を赤くし、でもそのあどけない寝顔は、普段から幼い印象を受けるいつもの美依より、さらに幼く見えた。
……やっぱり、紗奈とは全然違うかも
性格や見た目や……
そんなとこは似ているけれど、紗奈はもっとしっかりした子だし、こんなに無防備でもなければ、変に賢い。
間違っても、泥酔して男の部屋に連れ込まれるなど…そんな事は絶対しないタイプのように思えた。
そう、今の状況は完全に危ない。
俺が酔わせて連れ込んだ、と言われても仕方なければ……
何されても、文句は言えないと
美依はそんな状況下にあるのだ。