第27章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【前編】/ 徳川家康
「ごめーんっ、遅くなっちゃった!」
(────…………!!)
その声に反射的に振り返れば……
大学時代と何も変わらない、その可愛らしい姿があった。
肩までで切りそろえられた、艶やかな髪。
くりっとした大きな瞳。
小柄で華奢な身体つき。
白い可憐なコートを着た……
────…………美依
「美依、遅せぇよ!」
「ごめんね、仕事長引いちゃって…って家康?!」
「珍しいだろ、コイツがこんな場に居るの」
「……っ」
急に話を振られ、言葉が詰まってしまう。
本物だ、本物の美依だ。
記憶の中にあった好きな子の姿が、一気に現実に形を作って現れた。
でも、そのために来たんだろう?
美依に会うために。
こんな動揺してどうするんだ、俺。
冷静さを取り戻そうとしていると、美依はコートを脱ぎながら俺の傍にやってきて。
そのまま隣に座ると、ふにゃりと懐かしい腑抜けた笑みを見せた。
「家康、久しぶりだねー」
「うん、久しぶり」
「何飲んでるの、ビール?」
「そうだけど…美依も飲む?」
「飲む飲む!」
平然を装い、俺が空いたコップにビールを注いでいると、いつの間にか幹事は俺達の傍を離れてしまい。
美依と二人きりになると、美依はまた嬉しそうに俺に話しかけてきた。
「家康は今どこで働いてるの?」
「あ…隣町の動物病院。美依は?」
「ちょっとここから遠い所の小さな動物病院で、看護師やってるよー」
「へぇ……」
(……全然変わらないな、美依)
その高めで柔らかい、澄んだ声。
ふわふわと綿菓子みたいな外見も。
俺が好きになった頃のままの美依が、そこにはいた。
瞬間的に思い出したのは──……
『あの日』の美依。
あれは、大学三年の時で。
忘れもしない、1月31日。
俺の誕生日の、その日にもらった、美依からの誕生日プレゼント。
いや──……
『もらった』んじゃなく『奪った』のか