第27章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【前編】/ 徳川家康
(でも────………)
一人ビールを飲みながら、ぎゃあぎゃあ騒ぐ連中に視線を向ける。
その中に…あの子はいない。
今日は来れなかったのだろうか?
こーゆー賑やかなの、好きな子なのに。
俺が来た意味なかったかなぁ。
明日も仕事だし、今日は早めに帰らせてもらおう。
そんな事を思いながら、小さくため息をつくと…
いきなり後ろから首に腕が回り、びっくりする間もなく顔を覗き込まれた。
「家康〜飲んでるかーい?」
「うるさいな、酔っ払い。それなりに飲んでるから」
「珍しいよな、こーゆー場に来るの。どういう風の吹き回しだ?」
「たまには参加してもいいと思っただけ、深い意味は無い」
俺が首に回った手を振り払うと、その顔を覗き込んできた主…飲み会の幹事は俺の真横に座り…空になった俺のコップにビールを注いだ。
そして腕時計を見ると……
少し首を傾げて、ぽつりと呟いた。
「遅せぇな、美依」
「え?」
「美依だよ、来るって言ってたんだが」
『美依』
その名前を聞いた途端、心臓が跳ね上がる。
懐かしい、その名前。
やっぱり『あの子』は来るのか?
そう思ったら、変に緊張してきて……
思わず目を泳がせると、明後日の方からその呟きに対しての答えが飛んできた。
「美依、また先輩に振り回されてんじゃねぇの?」
「あー、まぁ彼氏だから仕方ねぇよな」
(え………?)
その言葉に、思わず目を見開く。
先輩……彼氏?
美依を振り回す……男?
俺は思わず幹事の襟元を掴むと、ちょっと食い気味にそいつに問いかけた。
「美依……彼氏いるの?」
「あれ?家康知らなかったのか、美依と結構仲良かったのに」
「知らない、誰?」
「あれだよ、うちの法学部だった超イケメンな先輩」
「……?」
法学部の超イケメンな先輩。
で、美依を振り回す彼氏?
頭の中で考えを巡らせ、そんな目立つタイプの人間をピックアップしていく。
(………まさか)
一人、法学部の知ってる人間で、それに当てはまる人物が頭に浮かんだ。
が、それを口にする直前。
飲み会中に、よく通る澄んだ声が響いた。