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【イケメン戦国】零れる泡沫*恋奏絵巻*《企画集》

第27章 〖誕生記念〗想ウ、君ノ名ハ【前編】/ 徳川家康





「そんなにニコニコして…何が嬉しいの?」

「やっと先生じゃなくなるから」

「え?」

「今日もお疲れ様、家康"さん"」




そう言って、柔らかに微笑む事務の女の子。
でも、もう診療時間が過ぎたから『獣医と事務』の関係ではない。

それはつまり──……
『彼氏と彼女』であるという事。
この子、紗奈は…俺の大事な彼女であるから。




「それだけでふにゃふにゃ笑うなんて、あんたはバカ正直すぎ」




指でぴんっと額を弾くと、紗奈は照れくさそうに笑って額を撫でた。

あーこの反応、本当に可愛いな。
そして似てる……『あの子』に。
こーゆー純な所とか、ふにゃふにゃ屈託なく笑うとことか。





『────…………家康』





柔らかい声質とかも。
小柄で、小さく華奢な所も。
どことなく……『あの子』を彷彿とさせるから。



(だから、選んだんだよな、俺)



紗奈がこの動物病院にやってきたのは、半年前。
初めて顔を合わせた時……
『あ、これは一目惚れされたのか?』と。
紗奈の反応で、すぐに察したものだった。

でも、仕事に一生懸命打ち込む姿や、素直になんでも頑張る姿勢を見て、『ああ、いい子なんだな』と感じて。

結局、紗奈から告白されて付き合ったのだけど…三ヶ月経った今でも、見事に何も無い。
キスくらいはしたかな、でも……
それ以上の関係は何も無いまま、今に至る。






────俺が未だに
『あの子』にこだわってるからだ






「もう帰るでしょ?送ってく」

「うん、ありがとう」

「毎日の日課だから、お礼とか要らないから」

「でも、ありがとう」




(こーゆー発言とかさ、本当に似てる)




動物病院を出て、車で紗奈を送りながら……
俺はどこか申し訳ない気持ちになって、こっそり小さくため息をついた。

結局、紗奈に『あの子』を重ね合わせているのだと。

『叶わなかった恋』を経験している人なら…皆同じ事を思うのだろうか?

どこか、他人を想い人に重ねて。
そして、自分を騙しながら関係を続けるのだろうか?




(失礼だよな……それって)




そうは思っても、昔の記憶は消えない。
『あの子』も『あの日』も──……
まだ鮮明に心に焼き付いているのだから。







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