第25章 〖誕生記念〗月下の蜜華に魅せられて / 石田三成
「光秀さんと家康の策も、失敗だったな……」
(え……?)
その言葉に、思わず目を丸くする。
私が頭を撫でる手を止めて、見つめていると…
美依様は何だか悲しそうに笑い、私を見つめ返してきた。
「この桂花陳酒、光秀さんと家康が用意してくれたお酒なんだ」
「そうなのですか?」
「あのね、異国では恋人と逢瀬をする前にこのお酒を口に含ませておくんだって……相手を誘惑するために」
「誘惑……?」
そのまま、美依様の口から語られた言葉。
それは、美依様の心からの本音だったのか……
私の頑なな心に突き刺さり、そして。
固い考えを木っ端微塵にする──……
そんな、愛らしい『真実』だった。
「三成君が私を大切にしてくれているの、解ってたよ。でも…私は不安だった、私自身を求めてくれない事に。だから、誕生日の贈り物として、私をあげたらいいと二人に助言されて…このお酒で誘惑しようとしたの。すごく良い匂いでしょう?それに惑わされれば、三成君も求めてくれるかなって…失敗しちゃったけど」
「───………っっ!」
月明かりが、眩く私を照らす。
まるで光の元に、心を晒すように。
────二人の気持ちを赤裸々に暴く
ああ、貴女って人は……
何故、そんなにいじらしいのですか?
お酒に任せようとしてしまう程、
私を、愛しく思っていてくれたのですか?
「あ……」
私がふわりと抱き竦めると、美依様は小さく声を上げた。
本当に、困った御姫様だ。
そんな風に可愛く言われたら……
もう、自分を止めるなんて出来やしない。
だって、私も思っていた。
ずっと貴女が欲しいと。
この腕に抱いてしまいたいと……
それこそ、夢に見る程に。
(私の身勝手な我儘だったのですね)
貴女の不安にも気づけず、頑なに貴女を汚すのを怖がって。
それは自分の自己中心的な考えだった。
貴女は、こんな手を使っても、私の色に染まってくれようとした。
ならば、誘惑されましょう。
一回はそれに流されたのだから。
講じた策は、成功ですよ?
だって──……
もう、貴女しか見えない程に、
みっともなく欲情しているのだから。