第25章 〖誕生記念〗月下の蜜華に魅せられて / 石田三成
「本当に綺麗ですね、月」
「うん、晴れて良かった」
「では、お酒を戴きますね」
注がれた酒を、一息で飲み干す。
ほろ甘い味が喉を通り過ぎ……
たった一酌で身体が微かに熱くなった気がした。
(なかなか強いお酒だな、これ)
ふうっと息をつけば、熱い吐息が口から零れる。
すると──……
また、ふわりと先程の甘い匂いが漂った。
あれ、この匂いは。
さっき美依様から漂ったのと同じ香りが、自分の吐息に混ざっているのに気が付き、私は首を傾げて美依様に尋ねた。
「美依様、このお酒は……?」
「桂花陳酒って言うの、金木犀のお酒だよ」
「金木犀……」
「色も綺麗で今の季節にぴったりかなって」
「なるほど」
逢瀬の前に召し上がられたという事かな。
一人で勝手に納得しながら、改めてその匂いを感じる。
その甘みの強い香りは……
どこか気分を高ぶらせ、何故か心を落ち着かなくさせた。
美依様に視線を向ければ、美依様は軽く上を向いて、月を眺めている。
私には、その首や細い身体付きの滑らかな曲線が、やたら艶めかしく見えて……
思わずこくっと、喉が鳴った。
「……美依、様」
「ん、どうしたの?」
「もう少し、傍に寄っても構いませんか?」
「う、うん」
美依様が小さく頷いたのを見て、私は盆の上に盃を置くと、それを少し後ろに下げる。
そして、美依様との距離を詰め……
隣にぴったりと寄り添った。
そのまま、自然な流れで手が美依様の腰に伸びる。
軽く腰を抱いて引き寄せると、美依様が若干頬を染めて、私を見てきた。
「三成君、今日はなんか……」
「……はい」
「ちょっと、積極的だね……」
「そう、かもしれません」
(何故だろう、貴女にとても触れたくなる)
お酒で、気分まで大きくなったのか。
いつもなら、こんな風にするのは躊躇ってしまうけれど……
甘い香りに当てられたのか、昂揚した気持ちが抑えきれずに、つい大胆な行動に出てしまう。
私は間近で美依様の瞳を見ながら。
我ながら熱っぽい口調で、美依様に問いかけた。