第3章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《後編》/ 明智光秀
「────美依」
「……っ、光秀さん……!」
俺が美依の部屋を訪れると、薄暗い部屋の中で美依が待っていた。
襖を開けた瞬間、犬っころのように走り寄ってきて。
その姿が愛らしくて、思わず心の中が芯が疼いた。
「すまない、待ったか?」
「いえ、大丈夫です……」
「……返事を聞かせてくれると聞いたが」
「は、はいっ…光秀さん、ちょっと中に来てもらえますか?」
そう美依が言うので、部屋に入ると。
部屋の奥には布団が敷いてあり、それを見て思わず一回心臓が高鳴る。
(なんとなく…それっぽい雰囲気を感じるが)
って、何を俺は早合点しているのだろう。
告白の返事を聞きに来た訳で、身体を重ねるとかでは……
そんな事を思い、少し俯くと、美依が襖を閉めた音がした。
反射的に、そっちを振り返ると……
なんと美依は自分の帯に手を掛け、それを解き始めたではないか。
「おい、美依……?!」
「少し待っててくださいね、今脱ぎますから」
しゅるしゅると布擦れの音を立てながら、美依は帯を緩め、着物をはだけさせていく。
これは一体どういう事だ。
順番が違う、美依の気持ちをまだ聞いていないのに。
次第に乱れていく美依を見て、俺は内心焦りながらも、それを悟られないように、落ち着きを払って美依の腕を掴んだ。
「美依、なんの真似だ……?!」
着物がすっかり脱げ、襦袢一枚になった美依の月影が、襖にやんわり映る。
美依は暗がりでも解るくらい、頬を赤く染め……
若干潤んだ目で俺を見上げながら、消え入りそうな声で答えた。
「光秀さんに、私をあげますっ……」
「は……?」
「欲しいと言ってくれたので、私、光秀さんにならあげてもいいと思いました。そのっ、初めてなので、至らない部分は多々あると思いますが……!」
そう言って、恥ずかしそうに目を伏せる美依。
俺は呆気に取られて、はぁっと一つ深い溜め息をついた。
全くこの小娘は……なんて安直なのだろう。
『欲しい』とは、それだけの意味ではないのに。
ただ身体が目当てなら、俺はただの狼だろう?