第24章 〖誕生記念〗艶やか椛と嫉妬の蜜菓子 / 明智光秀
「はい、光秀さん。あーん」
美依が箸で果物を摘み、俺の口へ運ぶ。
大人しく口を開けて口に含めば、途端にみずみずしい果実の食感が伝わった。
しゃくしゃくと咀嚼するも…
相変わらず味はさっぱり解らない。
それでも、美依の手から食べれば、それは無味ではなく極上の甘味のような、そんな気にさせられた。
(美依が作ったものなら…何でも極上なのだがな)
「なかなかの歯ごたえだ」
「うっ…やっぱりそーゆー感想なんですね」
「それに、腹に溜まりそうだしな」
「じゃあ、果物じゃなく、甘味の部分を食べてください!このパンケーキ、きっと甘くて美味しいですよ。蜂蜜もたくさんかけて…」
と、美依がその『ぱんけーき』の部分を箸で切りそうになったので…
俺はやんわり手を掴み、それを止めた。
目をぱちくりさせる美依を見て、クスッと笑いが漏れる。
食べる前に、お前に聞かなきゃならない事がある。
その甘味を作るのに…
お前はあのように秀吉と親しげにやる必要はあったのか?
俺は美依の腰を引き寄せ…
自分の搔いた胡座の上に、美依を座らせた。
「食う前に、お前に質問していいか」
「なんですか?」
「このぱんけーきとやら…誰と作ったんだ」
「えっ……」
「俺が何も知らないとでも?……随分と仲良さげな雰囲気だったが」
俺がそう言うと、美依は目を見開く。
よく覗き込めば、その黒い瞳には不敵に笑う自分が映っていて。
でもそれは、腹の底が見えない笑みではなく…
嫉妬心丸出しの、情けない男の表情に見えた。
「光秀さん、私が秀吉さんと作ってたの、見てたんですか?」
「お前と秀吉が台所で何かやってると聞いてな」
「でも、その言い方って……」
「うん?」
「もしかしてヤキモチですか…?」
美依が俺の肩を掴み、目をきらきらさせて聞いてくる。
なんだ、その可愛い顔は。
まるで焼きもちを妬かれて嬉しい、と読み取れる表情だ。
もしかして、嫉妬されたくて、あのように仲睦まじくしていたのか?
俺は耳元に唇を寄せ…
その耳の穴の中に、低く甘い声を注いだ。