第24章 〖誕生記念〗艶やか椛と嫉妬の蜜菓子 / 明智光秀
「味音痴の光秀さんが、美味しいって思えるような甘味を作る…って張り切ってたぞ、あいつ」
「……」
「だから、今は見逃してやれ…な?」
(……あの馬鹿娘)
心に愛しさが湧き上がる。
あんなに嬉しそうだったのは、この甘味を作るからだったのか?
俺に変に隠していたのも…
喜ばせたいとか、きっとそんな単純な理由だったに違いない。
本当に、純で真っ直ぐで。
それに惚れ込んだ俺は……
一体どこまでお前を好きになればいい?
────一体どこまで
俺を惚れさせれば気が済むんだ?
「光秀?」
俺がふっと笑い、台所から背を向けて歩き出すと、政宗が小さな声で呼びかけてきた。
だったら『見ぬ振り』をしてやらねば。
まぁ…あそこまで仲良く作る必要はないと思うがな。
それはそれで、後で問い詰めるとして。
今は…何も見なかったことにしてやろう。
「俺は何も見ていない、そうだろう?」
「……そうだな」
「だが、今は…だ。それは言っておく」
「ぷっ…了解」
振り返りもせず、政宗と会話して。
そのまま俺は、その場を立ち去った。
気になる事は多々あるが…
それでも、美依の気持ちを大事にしてやりたかった。
その足で、城の庭へと足を運ぶ。
庭を下り、橋の所で上を見上げれば…
澄み切った高い空と、鮮やかに色付いた椛が揺れるのが、目の中に飛び込んできた。
────ザァァァッ!
風が吹いて、その赤い葉を揺らす。
まるで、俺の心まで揺らしているようで…
そうして揺さぶられた想いが、椛のようにはっきり色を帯びて、この心に焼き付いていた。
(いつだったかの誕生日も、美依とこうして椛を見たな)
こうして見ても、情緒ある感想なんて浮かんではこない。
季節の移り変わりなんて、俺にはどうでも良かった。
そんなものに、気を止めている暇はなかったから。
それでも──……
今、ああ綺麗だと何となく思うのは、やっぱりあの馬鹿娘の影響なのだろう。
あの時は、そっと気持ちに蓋をした。
物事を白黒つけないのは得意分野だったから。
でも、一度自覚してしまえば…
それは一気に加速していった。