第24章 〖誕生記念〗艶やか椛と嫉妬の蜜菓子 / 明智光秀
「……っ」
しまった、誰かに背後を取られるとは。
慌てて振り返ってみれば、爛々と輝く青い瞳が目に入ってきて。
俺が名前を呼ぼうとすると、その男は『しー』と人差し指を、俺の唇に押し当てた。
「……」
「こうも簡単にお前の背後取れるとはな、光秀」
「…政宗、お前と戯れる暇はない」
「ぷっ…随分と不機嫌だな、眉間にシワ寄ってるぞ」
「……やめろ、殺すぞ」
今度は俺の眉間に指を当てて、シワを伸ばしてきたので、俺はそれをうざったそうに払い退けた。
何故政宗がここに…と思ってみれば、政宗は手に何やら果物を抱えていて。
もしかしなくても、台所に用があるのか。
俺がそれを尋ねると、政宗は不敵な笑みを浮かべ、挑発するように俺に言った。
「台所で何やってるか、気になるか?」
「…秀吉と美依は仲睦まじく、何を作っているんだ」
「随分棘がある言い方だな。二人が仲良くしてるのが、気に入らないんだろ」
「当たり前だろう、美依は俺の女だ」
俺が珍しく素直にそう吐けば、政宗は可笑しそうに声を押し殺して笑う。
…この男、鉄砲で頭を撃ち抜いてやろうか。
これ以上、俺を不機嫌にさせるな。
険しい顔で見つめれば、政宗は笑いを引っ込め…
今度は自分の唇に人差し指を立てて見せた。
「俺がお前に言ったと二人に言うなよ?」
「時と場合による」
「まぁ変な誤解されてもな。秀吉と美依は、お前に甘味を作ってるんだよ」
「俺に?何故」
「やっぱりお前、気づいてねぇのか」
呆れたようにため息を漏らした、政宗から出た言葉。
それは──……
今までの俺にとっては、興味の無い事だが。
恋仲である美依には、ひどく大切な。
そんな『ある一日』を思い出させるものだった。
「────お前、明日誕生日だろ?」
(……あ)
言われて考えてみれば、明日は十月四日。
数十年前に己が生まれた、まさにその日で。
美依がやたらそれを楽しみにしていたのを、今思い出した。
『恋仲になって、初めての誕生日ですね』
そう、嬉しそうに笑った美依。
つまり…
秀吉と、俺のために祝いの甘味を準備していたのか?