第23章 〖誕生記念〗一花繚乱、瑠璃色の蝶 / 伊達政宗
「昼間の事を謝っていただけだ、政宗」
「うるせぇ、俺はもう止める権利あるぞ」
「知っている、それも今聞いたからな」
「ま、政宗〜〜……」
腕の中で美依が声を上げるが、腕の力は緩めずに光秀を睨む。
結局のとこ、コイツはどう思ってんだ?
美依の事…好きなのか?
すると、光秀はやれやれと溜め息をついて…
なんだか大袈裟に、肩を竦めてみせた。
「やれやれ、俺の入る隙は無さそうだ」
「はなからそんなものは無ぇ」
「おお怖い、俺はさっさと退散する事にしよう。また殴られたくないからな」
くくっと笑い、指で手当てされた自分の頬を撫でて、光秀が背を向ける。
そのまま歩き出す後ろ姿を見ていたら…
光秀が振り返りもせずに、俺に言ってきた。
「悪あがきは止めだ。俺は惚れた女が笑っていれば…それでいい」
(……は?)
「光秀!お前やっぱり…」
「俺は飲み直す。遅くなったが誕生日おめでとう、政宗」
「おい、光秀っ……!」
俺の声には応えもせず、光秀はそのまま廊下の奥へと消えてしまった。
やっぱり、あいつも美依を。
それを思って、その消えた廊下の奥を見つめていると…
腕の中の美依がもぞもぞ動いて、やがて頭の羽織を退けて、首だけをひょっこり出した。
「ぷはっ……!」
「あ、美依悪い。苦しかったか」
「だ、大丈夫…光秀さんと何話してたの?……って、あれ、光秀さんは?」
「もう行っちまった。お前、会話聞こえてなかったのか?」
「政宗の声しか聞こえなかったよ。胸に埋めて羽織の中に隠されちゃ、声なんて聞こえないよ」
「ああ、そうか…」
美依に聞こえなくて良かった。
そう思った俺は、性格悪いのかもしれない。
だが…折角想いが通じたんだ。
早速横槍入れられるなんて、ごめんだ。
俺が少し乱れた美依の髪を優しく梳くと、美依は気持ち良さそうに目を細める。
その顔は…
幸せで堪りませんって感じだ。
(あー…その顔は駄目なやつ)
心が崩れる心地がする。
理性が剥がれる音がする。
ガラガラと…
脆くも崩れ去ったその後には、美依への愛しさだけが残った気がした。