第3章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《後編》/ 明智光秀
「急に欲しいものと言われてもな」
「だって助けてもらったお礼がしたいんです、せっかく忠告してくれたのに、それも聞かなかったから、お詫びもしたいし…それに光秀さん、もうすぐ誕生日ですよね?」
「……」
(そう言えば、すっかり忘れていたな)
美依に言われ、己の誕生日が明後日に迫っていたことを思い出す。
秀吉にも何が欲しいか考えとけと言われたな。
事件のことで、そんな事はすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
己が、一番欲しいもの。
元々自分は無欲だし、誰かに何かを与えてもらうなど、そんな事は考えもしなかったことで。
────でも、今なら答えられる
「本当に欲しいものを言っていいのか?」
俺は美依に向かい合うように座り、そっと優しく手のひらで美依の頬を撫でた。
すると、美依は少し目を見開き、息を飲んで。
そして、小さくこっくりと頷く。
それを見て、俺はふっと目元を緩めた。
『何が欲しいか』と問われれば、これしかない。
俺が最も欲しいもの、それは──……
温かく、柔らかい、淡い薄紅の温もり。
「────お前が、欲しい…美依」
「……っっ」
すると、途端に美依の頬が薔薇色に染まった。
言っていいと言われたから、俺は答えたまで。
むしろ、それ以外は答えがない。
俺はお前が欲しい、美依。
お前の温かさを、優しさを。
────それは嘘ではない、赤裸々の想い
「お前に恋仲の男がいると聞いて…俺はそれがどこか気に食わなくて、もやもやしていた。その時はそれが嫉妬だとは気づかなかった」
「光秀、さん……」
「今回事件が起きて…お前を、俺のこの手で守ってやりたいと強く思った。馬鹿みたいに真っ直ぐで純なお前を…ただの小娘には見えなくなっていたことに気がついた」
「……っっ」
頬を撫でながら、優しく伝える。
俺はお前に意地悪するのが好きだ、でも……
こんな時くらい、優しく言わせろ。
言葉にすれば、たった二文字の気持ちを。
たまには真っ直ぐに伝えてやる、お前のように。
「お前がすきだよ、美依──……」