第3章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《後編》/ 明智光秀
────その後、湖から駆けつけた九兵衛らと合流し
一緒にいた秀吉が、大袈裟なほど美依を心配して、いつも以上に過保護になっていた。
そして、湖で捕らえた買主と静馬と。
まとめて秀吉が引き連れ、城の牢へと連れて行き、本当の意味で事件は終息を迎えた。
俺はと言うと、美依を部屋まで送ってやる事になり、美依を俺の馬に乗せて城まで戻った。
戻る間、美依は終始口数が少なく……
まぁ、色々あったから仕方ないと思いつつも、美依に気持ちを伝えねばと。
小さく決心を決めていた。
でもそれは『いつ』とは決めていなかったのに、機会は必然に訪れるもので……
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「光秀さん……」
「どうした?」
「その、重くないですか……?」
「重いと言っても、どうせ歩けないだろう?」
「うっ……」
「冗談だ、全然重くないから安心しろ」
すっかり陽も落ちてしまい、薄暗い安土城の廊下を、美依を横抱きにして進む。
美依は腰が抜けてしまったのか、足が震えて立てないと言うので、必然的にこうするしかなかった。
まぁ、俺としては役得なのだけれど。
理由はどうであれ、美依に触れられるのは嬉しい。
芽生えた気持ちは、誤魔化せないし。
美依相手には嘘をつきたくない気持ちもあるから
───この腕の温もりを、いつまでもと願ってしまう
「光秀さん、何か欲しいものはないですか?」
部屋に着き、美依の身体を敷いてある褥に降ろしてやると、美依は俺を可愛らしい目で見上げてきた。
くりっとした澄んだ瞳に見つめられると、心がざわついて仕方ない。
身体が褥にあるという事もあり、色々な想像が頭を駆け巡る。
美依に口づけて、身体に触れたり……
そんな想像をしてしまい、小さく溜め息が漏れた。
まだ想いも伝えていないのに、男はしょうがない生き物だなと若干呆れてしまう。
(今は、美依を休ませるのが先だ)
俺はなんとか思い直し……
褥に座る美依の頭をぽんぽんと撫でながら、美依の問いに答えてやった。