第3章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《後編》/ 明智光秀
────パァァァンッッッ!!!
「ぐっ……!!」
刹那。
美依を捕らえる静馬の肩から、血しぶきが飛び散った。
静馬は仰け反り、当然美依の身体は、静馬の緩んだ腕から解放されて落馬しそうになり……
俺は片手で鉄砲を掴んだまま馬を走らせ、静馬の馬をすり抜ける瞬間、美依の身体を片腕で抱え上げた。
「きゃっ……!」
美依は小さく悲鳴を上げながら俺にしがみつき、その身体を馬上に引き上げる。
美依が俺の前で横座りになったとこで、俺は走らせた馬を止め……
今の瞬間、すり抜けた静馬の姿を振り返って見た。
静馬は左肩を押さえながら、ぐったりと落馬するところだった。
ぐしゃっ……
その身体が前のめりで地面に付き、突っ伏した静馬を見ながら、美依がか細い声を上げる。
「死んじゃった……?」
「いや、死んではいない。肩に当てたからな…骨は貫通してるだろうが」
「光秀、さっ……」
「言っただろう、俺を誰だと思っている」
美依が怖々と俺を見上げてきたので、俺は安心させるようにふっと口元を緩めた。
そして……
手に持つ鉄砲を放り投げ、その震える身体を優しく抱き締めた。
「お前が無事で良かった、美依……」
「あ…あ……」
「本当に、良かった……」
「み、つ、ひ、で、さっ……」
一気に安堵感が襲う。
美依の体温を確認するかのように、身体に回った腕に力を込め……
その身に傷ひとつ付いていないことに、改めて安心して胸を撫で下ろした。
本当に、お前は馬鹿な小娘だ。
人を信用しすぎるから、馬鹿を見るんだ。
それがお前の良い所とは解っているけれど。
それでも、こんな事は勘弁してくれ。
お前は、危険な道は歩かなくていい。
光の照らされた、明るく優しい道だけを……
お前は笑って、歩いていればいいんだ。
美依も俺の身体に腕を回してきて。
硬く抱き締め合いながら、お互いの無事を温もりで確かめ合った。
美依は、しばらく俺の胸で泣いていて。
怖かったのだろうと…その小さな身体を癒すように、俺は背中を優しく撫でてやった。