第21章 〖誕生記念〗愛され兎と真紅の『かれし』/ 織田信長
(……もう、朝か)
眩しい光を感じて、目を開けてみれば。
既に夜は明け、天主中に柔らかい光が降り注いでいた。
随分、ぐっすり眠ってしまった気がする。
それは多分……
この腕の中の温かさのせいだ。
俺の腕の中で、一糸まとわぬ姿で穏やかな寝息を立てる美依。
その柔肌は温かく…
いつまでもこうしていたいと思う程に離しがたい。
そして寝顔は、どこかあどけなくて。
夜に乱れていた時とは、別人のようだ。
その昼夜の差が、また俺しか知らない『特別』のような気がして、やたら優越感を感じるのだが。
「ん……?」
と、褥の横に散らばった黒い夜着に目が止まる。
一着はいつも着ているものだが…
もう一着の夜着も、その柄にどこか見覚えがあった。
少し考えて、それが美依との喧嘩の火種になったものだと、直ぐに思い当たる。
誕生日の贈り物を、抱えて泣いていたのか。
そのいじらしさに、また愛しさを覚えた。
(まぁ、俺とて、貴様の温もりが欲しい時もある)
美依を起こさないように、身を起こして黒い夜着の横に視線を移せば、昨夜美依が着ていた着物と襦袢が脱ぎ捨ててあった。
おもむろに襦袢だけを手に取り、その感触を確かめ、それに顔を埋める。
ほのかに香の匂いと、美依の甘い匂いが混ざって…
蜜のような馨しい匂いに、心が若干ざわついた。
そして、その滑らかな布の感触も…
まるで美依の肌のようで、またどこか心が騒がしくなる。
美依を思うだけで、このザマだ。
よっぽどこの女に惚れてしまっているらしい。
そう思ったら、苦笑が漏れた。
「んっ…のぶ、さまぁ……」
その時、美依の可愛らしい声がした。
起きたかと思い、そちらを向くと、美依はころんと体勢を変え…
毛布を巻き込み、俺に背中を向けた。
そして、また聞こえてくる、安らかな寝息。
その痕だらけの白く小さな背中が上下するたび……
やたら安らかな安堵感が俺を襲う。
「……貴様、俺に背を向けるとはいい度胸だ」
そんな美依の姿に、ふっと吹き出し。
俺は胡座に頬杖をついて美依を見ながら、ぽつりと独り言を漏らした。