第21章 〖誕生記念〗愛され兎と真紅の『かれし』/ 織田信長
「信長様、ごめんなさいっ……!」
私も一層強く、信長様にしがみついた。
こんなにも優しい貴方だけに、謝らせてはだめだ。
傷ついた目をさせたこと。
それは私が精一杯、謝らなくてはいけない。
「確かに信長様への誕生日の贈り物でした。でも、私が変に隠したから、貴方は疑ったのでしょう?」
「美依……」
「疑わせてごめんなさい。貴方に言われた時、隠したりしないできちんと話していれば良かったのに…」
「……そうだな」
「本当に本当に、ごめんなさい。喧嘩別れして…すごく寂しかったです」
寂しかった。
本当に…寂しくて死にそうだった。
私は何度も信長様に『ごめんなさい』と謝った。
すると、背中に回された手が、私を優しく撫で…
まるであやす様に、背中の中央を手が滑る。
「もうよい。お互い悪かった、それでいい」
「は、いっ…ありがと、ございま……」
「いい加減泣きやめ、俺に会えて嬉しくないのか」
「嬉しいから、余計に、ううっ……」
涙腺がおかしくなってしまったのか、信長様が優しくなだめてくれても、涙が一向に止まってくれない。
すると、苦笑したような声が聞こえ…
信長様は少し身体を離して、私の顔を覗き込んだ。
そのまま大きな手が頬を撫でる。
目尻を優しく指で拭われて…
その次は、ふわりと瞼に口づけが落ちた。
「泣きやめと申しているだろう、俺はまだ帰ってきてから、貴様の笑った顔を見ていない」
「信長様……」
「笑え…今日は俺の誕生日なのだから」
そう言われ、視線を泳がせれば、まだ天主の中は真っ暗だった。
まだ、夜は明けていない。
信長様の誕生日は…終わってないんだ。
私は必死に涙を飲み込み、目元を緩める。
一生懸命…笑顔を作って信長様に笑いかけた。
「おかえりなさい、お誕生日おめでとうございます」
すれ違ってしまったけど、まだやり直せる。
貴方の誕生日を。
せめて明日になるまでは、精一杯祝いたい。
笑えと言うなら…私はそうするだけだ。
「────ああ」
すると、信長様は短く答えて満足そうに微笑み…
そのまま、私の唇を塞いだ。