第21章 〖誕生記念〗愛され兎と真紅の『かれし』/ 織田信長
そのままぎゅっと引き寄せれば、信長様も私の脇の下から腕を回し、抱き締め返してくれる。
温かな体温、本物の信長様の匂い。
その硬い身体の感触が、また私の涙を誘う。
────触れたかった、貴方に
流れ出した涙は、また止まってくれない。
こんなにも焦がれていた事を改めて感じ、私はひっく…と声を飲み込むようにしゃくり上げた。
すると、耳元でくすっと笑った声が聞こえ…
そのままの姿勢で、信長様は低く優しい声で囁いた。
「何故、泣く?」
「だって、会いたかっ…た、んです……」
「俺達は喧嘩していたのだろう?」
「……っっ」
今が謝るチャンスだ。
信長様に、隠し事をしてごめんなさいと。
貴方の夜着を作っていましたと…
きちんと謝って説明せねば。
私は一回唾を飲み込み、呼吸を整えて。
そして、謝罪の言葉を口にしようとした。
その時──……
「疑って…悪かった、美依」
(えっ……)
信長様の口から出た言葉に、私は思わず目を見開いた。
なんで信長様が謝るの?
謝るのは私の方なのに……
でも、私が訂正する間もなく、信長様は強く私を掻き抱いて、そのまま淡々と言葉を続ける。
「秀吉に聞いた」
「え……?」
「その黒い布地は、秀吉と貴様で市へ探しに行ったと。俺の誕生日のために…貴様は一生懸命選んでいた、と」
「……っ、それは……」
それを聞き、言葉が詰まった。
確かにその反物は、秀吉さんと一緒に市へ出向いて選んだものだった。
信長様に似合うものを、秀吉さんの意見も参考にしながら。
信長様は…それで謝ってくれたの?
疑って悪かったと、私よりも先に。
「そうなのだろう、美依」
「そう、です、けどっ……」
「少し考えれば解る事だった。貴様は真っ直ぐな女で…俺以外を見ない事も解っていたのに。貴様を疑うなど、愚かだった。本当に…悪かった」
「……っ」
(信長様っ……)
私が悪いのに、隠した私が悪いのに。
信長様は、自分が悪いと…
きっと自分をすごく責めたんだ。
だからきっと、今こんな風に優しくて…
────いや、違うよ
貴方は、いつでも私には優しかった
だから、今こんなに涙が出る
貴方があんまりにも、温かいから