第3章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《後編》/ 明智光秀
「こうなったら、もう生かしておけないなぁ…この仕事が公に出るのはちょっと宜しくないし、折角なら食っとくんだった…残念」
「ちょっと、やっ……!」
「大人しくしてろよ、楽に死なせてやる」
「美依っ……!」
今にも美依の喉を掻っ切りそうに、短刀が揺らぐ。
それを見て、俺はすぐさま腰の鉄砲を引き抜いた。
そして、銃口を二人に向けながら構え……
引き金に、指を宛てがった。
すると、それを見た静馬が『ハッ!』と馬鹿にしたように吠え、さらに小馬鹿にした言葉を続ける。
「なんだ、鉄砲で脅す気か?」
「脅しではない、お前が美依を殺すと言うなら、先に俺がお前を殺す。火種は着いているからな、引き金を引けば発砲するぞ」
「この至近距離で撃つのか?馬鹿め、撃てば女にまで当たるぞ!」
「俺を誰だと思っている?俺は絶対外さない、間違いなく…お前だけを撃ち抜く、静馬」
声を荒らげる静馬に対し、俺は淡々と言葉を紡いだ。
俺は感情に任せて、銃を構えている訳ではない。
鉄砲の使い手で、安土の策士である、この俺が……
何の考えなしに、美依に銃口を向けると思うか?
(美依は……俺が守る、この手で)
ずっと、ずっと強く思っていた事。
純粋無垢なお前を、俺が守ってやりたいと。
清らかで可憐な笑顔を枯れさせないように。
いつでも幸せそうに、笑っていられるように。
それは怒りより強い激情。
────美依はもう『ただの小娘』ではない
「光秀、さ……」
「美依、任せておけ」
怯える美依に、俺は囁く。
少しでも美依の心に突き刺さるように。
「お前は何も心配しなくていい」
「……っっ」
「俺だけを見ていろ、いい子だろう?」
なにやら静馬が喚いているが、耳には入らない。
聞こえたのは、美依が小さく息を飲む音だけ。
それでいい。
何も心配するな。
お前は、俺に守られていればそれでいい。
引き金に宛てがう指に力が入る。
一点集中、研ぎ澄ました感覚を解放する。
────美依、俺は、お前の事が
「俺だけを信じていろ…美依っ……!!」